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コラム

気候ネットワークの豊田さんに聞く「電力市場高騰の要因と、環境に優しいエネルギー政策のこれから」

テラエナジーでんきは「市場連動型」という料金算出の仕組みを採用しています。この仕組みは、「電気を買う費用」を、日本電力卸取引市場(JEPX)の価格に連動させて電気を調達し、お客さまにお届けしています。

この「電気を買う費用」は、電気をつくる側から販売される電気の量・価格と、ご家庭に電気を販売・提供させていただく小売電気事業者の希望購入量・希望購入価格が一致する点(均衡点)で決定される「市場価格」にもとづいています。

つまり、「電気を買う費用」は常に変動しています。そのため、市場価格が低い場合はお客さまの電気料金が安くなるメリットがある一方で、市場価格が高騰した場合は電気料金が高くなるリスクもあります。

その電力市場が、昨年の12月後半より、価格の異常な高騰が続いています。12月中旬まで10円/kWh前後であった電力卸売価格が、年末から急高騰しています。

これまでにも市場が高騰したことはありましたが、今回の水準は明らかにこれまでとはレベルが違います。テラエナジーに限らず、多くの新電力にとって、事業の存続に関わる死活問題です。しかも、この状態がしばらく続く可能性があります。

今回は市場の異常な高騰が続く要因や、今後の見通し、さらにエネルギー政策への提言について、自治体向けに環境エネルギー政策のコンサルティングを行う、特定非営利活動法人気候ネットワークの豊田陽介さんにお話を伺いました。

 

電力市場高騰の要因


―電力市場の異常な高騰が続いています。その要因や理由を教えてください。


本当に異常ですね。市場が高騰するのは、需要に対して供給に余裕がなくなることが原因です。 つまり、電気を使用する個人や企業は多いのに、届ける電気に余裕が無くなっているということです。

―電気が足りなくなって、日本全体が停電する可能性もあるのですか?


電気は逼迫していますが、停電が起こらないように電力広域機関から各電力会社に最大出力での運転の指示を出したり、電力会社間での電力融通を行ったり、企業の自家発電からの電力調達を行ったりしていますので、すぐに停電になるということではありません。

―それはひとまず安心しました。ではなぜ、こんなに高騰しているのですか?


今回の要因はかなり複合的に重なりあったものですが、主に「ラニーニャ現象による厳冬」と、複数の理由による「LNGの不足」が挙げられます。

―詳しく教えてください。


要因の1つは、寒波による冷え込みです。12月下旬から年明けにかけて全国的に平年並みの気温を下回る日が多かったです。寒いので、どうしてもエアコン暖房などの使用が多くなります。そうすると、電気の使用量が高まり、需要が大きくなります。

―私は関西在住ですが、12月中旬から急に寒くなりました。確かに、暖房をつける時間は増えました。だけど、市場が高騰するほどの影響があるようには感じられないです。


全国的な寒波により、全国で一斉に暖房の使用量が高まるので、需要は想像以上に大きくなります。2020年12月の全国の電力需要は、新型コロナウイルスによる経済活動の落ち込みにもかかわらず前年同月と比べ約4%増えたといわれています。

―外出自粛が増えて、家にいる時間が長いのですかね。


ただ、過去に例がないほどの気温低下というわけでもありませんし、電力需要が過去最高水準まで高まったということでもありません。需要側、つまり電気を使用する家庭や企業の要因だけで、価格高騰を説明するのは無理があります。

―ということは、違う要因も関係しているのですね。それが、LNGの不足でしょうか。

その通りです。

―そもそもLNGとは何ですか?


今から約10億年以上も昔、地球上に棲息していた動物や植物が水底に沈み、砂泥中に埋もれ、それがやがて分解したといわれているのが天然ガスです。天然ガスは油田などから採取され、マイナス162度まで冷却して液化したものを、Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)略してLNGと呼びます。

―LNGってガスなのですね。なぜガスと電気と関係あるのですか?

このLNGは、火力発電所の燃料になります。

―火力発電所は石油と石炭を燃やしているのだと思ってました。


火力発電所の燃料は主にLNG、石油、石炭の3種類です。年々このLNGの使用量が多くなっています。LNGは、石油石炭と比較すると燃焼した際のCO2排出量が少ないのと、世界各地で産出されていることから安定的に入手できることが、その理由です。日本は現在電気の約4割をLNG火力発電に頼っています。

出所:jera「南横浜火力発電所」

―安定的に入手できるということなのに、今回なぜ不足しているのですか?

1つは新型コロナウイルスの影響です。

―えっ、そんなところもコロナの影響なのですか。


LNGは、世界各国で産出されていますが、近年はアメリカからの輸入が増えています。船で輸入しているのですが、アメリカからアジア向けのLNG航路はパナマ運河を通過します。

パナマ運河の通過手続きが新型コロナウイルスによる対策強化をしたことなどで時間がかかるようになり、渋滞が続いているようです。そのため、アジア向けの天然ガスの需給が逼迫し、価格も高くなっています。

―なるほど、そんなところにもコロナの影響が出るのだなと驚きました。他のルートってないのですか?


パナマ運河を通るルートが一番早いのです。アメリカを出発して、20日前後で日本に到着します。今回は渋滞により、13日ほど遅れているそうです。あまりに遅れているので、違うルートに変更したものも出てきているとは聞いています。

出所:日経エネルギーNEXT「電力市場の異常な高騰はまだまだ続く? LNG供給に乱れ」

―それにしても、遅延だけで、これほどにも市場が高騰するものなのですか?

運が悪いことに、世界各国でLNGのトラブルが相次いでいます。世界最大のLNG供給国であるカタールでは、11月頃から計画的なメンテナンスに加えて、突発的な機械トラブルで輸出量が減少しています。

ナイジェリアではガスラインが爆破されたり従業員のストライキが起こったり。さらに韓国や中国でもLNGの輸入が増加しており、日本に輸入されるLNGのコストが高くなっていることも影響しています。

―LNGにまつわる幾つもの課題が同時に出てしまったのですね。だけど、そんなにLNGに頼らないといけないのでしょうか?最近は太陽光発電も増え電気は余っているのだと思っていました。


LNGは、基本的に、調整電源として使われます。つまり、今回のように寒波があって電気の需要が高まったときに活用されていました。燃やすとすぐに発電できるので、そういった使われ方をしています。

―いまが一番必要なタイミングじゃないですか?!


そうなのですよ。よりによって、このタイミングで入ってこないので不運としか言いようがありません。さらに、今年は新型コロナウイルスの影響で電力需要は格段に少なかったので、供給過剰にならないように例年よりも輸入量を絞っていたとも言われています。

―なるほど、色んな要因が絡み合っているのですね。


その他にも大手電力会社らがLNGの在庫が少なくなってきたことで、自社の小売部門への電力供給を優先し、卸電力市場への供給量が減少したことで高騰につながったのではとも推察されています。

―聞けば聞くほど複雑な問題であることが分かってきました。まとめてしまうと、LNGの不足により電気供給の絶対量が減少したことに加えて、寒波による暖房需要の急増が重なり、電力取引価格の急激な価格高騰を引き起こしているということですね。


その通りです。

―いつまで続くのでしょうか?

追加のLNGを確保できるまで、早くても1〜2ヵ月かかると言われています。なので、LNG不足が解消されるのは2月頃だと予測されます。

―2ヶ月もこの状態が続くのですか……。

ただ、LNG不足が解消されても、市場の価格はゆるやかに上がった状態が続くかもしれません。暖かくなり電力需要が落ち着いてくると価格も安定するとは思います。

 

環境に優しいエネルギー政策のこれから


―今回のような事態を防ぐために、今後の方法などあるのでしょうか?


私は再生可能エネルギーの普及が専門なので、その観点からいうと、日本の再エネが太陽光発電ばかりが普及してしまい、風力発電の普及が遅れていることも一つの課題です。

―確かに、太陽光だと冬場の発電は少ないでしょうしね。


蓄電池も普及していないので、夜間の電力をまかなうことができないのも太陽光の課題です。これからは電気自動車の活用が一つの鍵になるかもしれません。昼間に電気自動車に蓄電しておくと夜間にも活用できます。

もちろん太陽光発電が悪いわけじゃありませんが、それでも日本の再エネ構造は太陽光に依存した歪な状態です。世界各国では風力発電が増えています。日本は冬になると風が強まりますし、風力発電の設置に向いている環境です。

―昼夜関係なく風が吹けばいつでも発電可能な風力発電が注目されるわけですね。

冬場の対策として興味深いのは、地域熱供給システムがあります。

―なんですかそれは?


デンマークやスウェーデンなどの北欧で普及しているシステムですが、木質バイオマスを燃料にして温水を一ヶ所で作り、それを張り巡らせたパイプを通して周辺の施設・住宅に送り、暖房や給湯に利用するシステムです。

各建物でボイラーやストーブ・エアコンを持たずとも、水道管のように送られてくる温水を使うことでパネルヒーターなどの暖房器具を使うことができます。

出所:Energy Democracy「デンマークから考える地域熱供給」

―お湯が地域を循環して、暖房っていうことですか。ちょっと想像できないです。

日本でも導入されていますよ。

―えっ、どこでですか?


北海道の下川町です。いままで木材として使えず捨てていた切れ端や根や樹皮をチップにした燃料でお湯を大量に沸かし、配管をつなげて地域熱供給システムを導入しています。現在は公共施設30カ所に熱を供給、公共施設の熱需要の60%に達しています。

―電気じゃなくて熱を使うって方法もあるのですね、驚きです。


これによって地域内の燃料費を大幅に削減できたのと同時に、林業に副収入をもたらしました。さらに、山林が適切に管理され林業復興の仕組みの一つになっています。住民参加を積極的に進めて持続可能なまちづくりを実践する人口3200人の下川町では、移住者も多く人口減少に歯止めがかかっています。

―今回の電力市場の高騰を、もし教訓にできるとするなら、どんなことが考えられるのでしょうか?


今回の電力価格の高騰を受けて、供給力の確保のためには石炭火力発電の新設や原子力発電の再稼働を求める人もいます。しかしながら、現在社会全体での電力の消費量は減少傾向にあるなかで、電力ピークに対応できない即応性の低い石炭や原子力を増やすことは対策になりえません。

今後の安定供給と脱炭素社会の実現の両立のためには、多様な再生可能エネルギーを活用して国内自給率を高めることと、それに対応した電力システムへの移行が重要です。


新電力も単なる電気の小売事業にとどまることなく、独自の電源調達のためにも地域での再エネ開発を進めながら、その先には省エネサービス、ガスや熱事業、その他を加えた「地域総合エネルギー企業」に成長していくことが期待されます。

<参考記事>
日経エネルギーNEXT(1月6日)電力市場の異常な高騰はまだまだ続く? LNG供給に乱れ
電気新聞デジタル(1月6日)スポット価格高止まり/売り札不足でLNG火力が「息切れ」

文責:霍野廣由

本記事は、TERA Energy公式noteにも掲載しております。

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