Activity活動内容
小学生以下のお子さまを対象に「京都の歳時記」「文化」に関したものや、「衣」・「食」・「住」、そして「芸術」「職業体験」など、さまざまな授業やイベントを開催。
Interview子どもたちが楽しく遊んで学べる場を 創業300年を迎えた老舗百貨店の取り組み
中村聡さん
だいまるきょうとっこがくえん
1988年大丸入社。京都店、本社などで主にアート、宝飾関連を担当。現在、営業推進部 古都ごとく京都プロジェクト(KKP)担当として、主に「だいまるきょうとっこがくえん」の企画運営を担当。
「だいまるきょうとっこがくえん」は、楽しく学んで、楽しく遊ぶをテーマに、「京都のまちに貢献したい」という思いで始まった取り組みです。創業300年を超える老舗百貨店「大丸京都店」が2019年に始めました。
京都の歳時記や文化に関するものや、衣食住、そして芸術や職業体験など、さまざまな授業やイベントを行っています。今回、イベントの企画・運営を担当している「KKP(古都ごとく京都プロジェクト)」の中村聡さんにお話を伺いました。
- ライター:黒木 萌
- 宮崎県延岡市生まれ、在住。大学卒業後、企業で総務、人事・勤労業務を経験。通信制高校サポート校での勤務を経験。文章を読むことと書くことが好きで、本に関するイベントを多数企画。最近の癒しは絵を描く(特に色を塗る)こと。好きな色は青で、春の海が好き。今年から始めた畑にほぼ毎日通っている。
300年お世話になっている京都で子どもたちが学んで遊べる場を
TE
はじめに「きょうとっこがくえん」を始めた経緯について教えてください。
中村さん
「大丸」は京都が発祥の地です。1717年に伏見で呉服商からスタートし、2017年に300周年を迎えました。京都には本当にお世話になっている中で、大丸としても地域貢献を掲げています。その文脈で、子どもたちに、学んで遊べる場を作ろうじゃないかと、2019年3月にこの「だいまるきょうとっこがくえん」が発足しました。
その年は、ちょうど番組(ばんくみ)小学校という、日本初の小学校が1869年に京都で生まれてから150年経った年でした。明治維新の時に、京都の未来には子どもたちの教育が欠かせないと、地元の有志が寄付を出し合って創立した学校です。
TE
きょうとっこがくえんの対象は何歳くらいのお子さんですか。
中村さん
だいたい5歳から12歳で、主に小学生以下のお子様が対象です。イベントで工作を楽しむことができる年齢を想定しています。
同じ場所と日時で開催することで認知度が上がってきた
TE
中村さんはきょうとっこがくえん立ち上げのときから関わっていますか?
中村さん
いいえ。立ち上げ時は月に1回程度イベントを行っていたんですけれども、新型コロナウイルス感染症の流行や担当者の変更があり、それから数年間は認知度が低いままでした。2022年3月から私たちKKPグループが、きょうとっこがくえんを再定義してリニューアルしました。
毎週土日と祝日、ゴールデンウィークも毎日、お盆前はほぼ毎日と、開催頻度を上げたんですよ。そうすることで、「休みの日はここでイベントをしているんだ」と認知してもらえるようになってきました。LINEの友だちを募集しはじめてからまだ1年経っていませんが、現在700人ぐらい登録してくださっています。
京都の伝統工芸や年中行事を子どもたちに学んでほしい
TE
普段定期開催する中で大事にされていることや工夫していることを教えてください。
中村さん
学んで遊べるというコンセプトでやっていますが、京都の伝統工芸や年中行事を学んでほしいと思っています。つまり、イベントが単に盛り上がればいいということではありません。他と違う大丸ならではの、特に「きょうとっこがくえん」である以上、京都のことを扱いたいと考えています。
京都は年中行事も伝統文化もいろいろありますが、これは最近失われつつあります。今までは地域の中で先輩方が教えていたと思うんですけども、段々マンションに住まわれる方も増えてきて、せっかく京都にいながら、地域のそういう文化に接する機会がないという声を聞いています。
たとえば夏に「地蔵盆」という京都でお地蔵さんを囲んで、お坊さんが来て数珠を回すという、子どもたち向けの年中行事があります。それも今までは地域の町内に住んでいる方が音頭を取ってしていたんですが、どんどんマンションが増えてきて、だんだんそういうことをする人がいなくなってきたとお聞きしました。
そこで、8月にだいまるきょうとっこがくえんで地蔵盆をしたんです。そうしたら親御さんからも、「昔はやっていました。懐かしいです」という声をいただきました。京都にとってそういう文化はすごく大切ですし、京都にお住まいのお子さんにも知っておいてもらいたいと思っています。
子どもたちに人気だからと言って、たとえばゲーム大会をするとして、それはどうしてやるのか、というところが大事です。実際、一度アンケートを取ったことがあります。「どういう授業がいいですか」と尋ねたのですが、スポーツやプログラミングの授業などいろいろなことを選択肢の中に入れた中でのトップは、京都の文化と京都の伝統工芸について学ばせてほしいという声が大きかったです。
京都にはたくさん伝統工芸の職人さんがいらっしゃいますので、そういう方に来ていただいて、たとえば漆(うるし)塗りをしたり、竹で箸を作ったりします。そうすると子どもたちは目を輝かして参加しています。
その時に感じたことは、最近の子どもたちはゲームやスマホなどさまざまな情報や刺激がある中で、いわゆる昔の手で作る遊びに接する機会がなくなってしまっています。でも保護者からすると、スマホから手を離して竹を削ってほしいという要望をいただいたので、私たちの判断は間違っていなかったと、それを信条にしています。
子どもたちに「選択」してもらって作品を仕上げる
TE
イベントをする中で特に面白かったものはありますか。
中村さん
いろいろあるんですけど、たとえば日本に和ろうそくといって、ろうそくの中でも植物性の原料を使って作る和ろうそくというものがあるんですけども、これに絵付けしようというワークショップを行いました。それを東日本大震災で被災された方々に、供養として収めようという意味合いもありました。実際、完成したものを我々のメンバーが実際に東北まで行って奉納してきました。
ほかにも、京野菜を水耕栽培で育ててみようという夏休みの自由研究を行いました。大丸京都店の地下に大きなウィンドウがあるんですが、そこに水耕栽培できる装置をつけて、子どもたちに選んでもらった京野菜の苗をその装置に1ヶ月間入れてもらって、夏休みに観察しました。それがだんだん育っていくんですよ。最後はとても大きくなりました。そうして植物が育っていくのを体感してもらいました。
祇園祭(ぎおんまつり)のときは、郭巨山(かっきょやま)というところに皆さんをお連れして、そこでちまき授与の体験をしてもらいました。「ちまきどうですか~」と声をかけるなどして歴史を感じてもらいました。
地域の大学生の授業もあります。学生に1から企画を考えていただいて、それにご協力いただく取引先を一緒に考えて、学生が考えたアイディアを実現しつつ、お子様にイベントしてもらうということを何度かしています。
TE
これまでいろいろな子供たちが参加してくれたと思うんですけども、その中で中村さんが感動したことを教えてください。
中村さん
織物のハギレで、使わなくなって捨てる端材を呉服商の方に提供してもらって、それを紙に貼ってパネルにしようというイベントをしたことがあります。いろいろなハギレがあるんですよね。
完成してみたら、まさに子どもたちの個性がそれぞれあふれていて、絵画のようなすばらしいものができたり、現代アートのようなものもあったりしました。子どもたちもとても喜んでいました。
ハギレをたくさんのりで貼っていくだけなんですけども、どのハギレを選択するかということと、選択したものを自分の思いで貼っていくという二つの作業があります。その結果、アートになって、子どもたちは感動したようです。参加した子どもたちから「すごく楽しかった」「またぜひ来たい」と何回もお声をいただいて、開催してよかったと心から思いました。
作品はお部屋に飾ればずっと残りますし、思い出になっていきます。本来は捨てられるはずだったものが、そのように再利用されて、京都に昔からある、環境に優しく決して無駄にしないという「しまつのこころ」も伝わるのかなと。大人になったときに作品を見て思い出してもらえるし、いい授業だったと思っています。
TE
大変だったことや苦労したことについて教えてください。
中村さん
一つ反省していることがあります。今の話と逆なんですが、あるものを木で組み立てていこうという授業をしました。完成してみると、みんな同じものができてしまって、つまり選択肢がないということは面白くなかったかなと。そういうときは子どもたちの反応で分かります。どこか物足りない表情がありました。
自分たちが楽しく仕事をすることが子どもたちにも伝わる
TE
中村さんが日々生活されてる中で大切にしていることを教えてください。
中村さん
仕事をしていて、非常に大事だと思うのは、メンバーと楽しく話し合いながら決めることです。きょうとっこがくえんの企画をするにしても、和気あいあいとした、壁がない雰囲気でやっていることや、私たち自身が楽しくしていることは子どもたちにも当然伝わります。イヤイヤしているとそれも伝わってしまいます。楽しいことをするにはこちらも楽しく仕事をするというのが信条です。
TE
中村さんが今、夢中になっていることを教えてください。
中村さん
この間、ロードバイクを買いました。私は今京都の隣にある滋賀県に住んでいます。自転車は初期投資にそこそこお金がかかるんですけど、一番いいところは体を動かすことです。健康に非常に良いです。
さらに私が住んでる近辺は、ありがたい事にサイクリングロードがいっぱいあります。琵琶湖に「ビワイチ」という大きいサイクリングロードがあって、それに今夢中です。
生きていくことは自分を見つめること
TE
お坊さんが立ち上げた会社であるテラエナジーにちなんで、死生観をお聞かせください。
中村さん
生まれて、いつか死んでいくということは、自分を見つめていく、自分とは何かなと考えていくことでしょうか。たとえば仕事でも趣味でもそうですけど、環境が変わることがありますよね。たとえばサラリーマンだと異動したりと、自分が意図していない中で環境がガラリと変わる可能性があります。
環境によって自分が変わっていくんですけど、そもそもの自分とは何かなというのをしっかり持っていて、それを分かっていれば、多少環境が変わってもそんなにオロオロしないのではないかと思っています。
一方で、死ぬまでなかなか自分のことは分からないだろうとも思うんです。たとえば自転車の色ひとつとっても、これを何色にするか、けっこう悩みました。最終的に白を選んだんですけど、なぜ白なのか、本当に白が好きなのかとか、緑が好きなんじゃないのか、赤が好きなんじゃないかとさんざん自分の中に落とし込んでいきました。最終的に理由はないんですけど。決めた後にやっぱり嫌だとなっても変えられないので。
色一つでも選ぶ、つまり自分が選択するものの中に意志があるわけです。どうしてそれを選んだかに自分自身が出てきます。車の色を選ぶときに、青を選ぶ人もいれば、黒を選ぶ人もいて、白を選ぶ人もいるので、それはなぜなんだろうなと。
きょうとっこがくえんの隣に位置するランドセル売り場で、子どもたちがランドセルの色を選んでいきます。お母さんと娘さんの意見が違ったりもします。突き詰めて行くと、「私はこの色が好き」というのは、何なんだろうなと、どんどん自分を見つめていくことによって、自分のことが分かれば精神的に安定して、人生を過ごせるのかなと思っています。
周りの環境はどんどん変わるじゃないですか。病気になるかもしれない。でもその中でぶれない確固たるものを少しでも持っていたら、周りに惑わされることなく、自分として生きていけるのかなと思っています。
「この色」とか「これ」とか選ぶこと、自分で選択した人生を、失敗するかもしれないけれど、それは学びとして受け止めていく。子どもたちには人から与えられたものばかりじゃなく、自分で選択する人生を生きてほしいと願っています。
TE
今お伺いしたことは死生観でいうと「生」の部分に当たるのかなと思うんですけども、「死」について思うことをお聞かせください。
中村さん
この間、私の義理の母が、急に体調を悪くしました。救急車で運ばれて、夜中に救急病院に行きました。もう大丈夫で安静にしているんですけども。その時に病院から、「延命処置はどうしますか」と尋ねられました。
そんな話をしてる中で、死を割と身近に感じました。その時はできるだけ健康でいたいなと思いました。そうするとやはり運動していかなきゃと。体を動かしているとご飯も美味しいですし。健康であればこそ長生きも生きてくるなと思います。まず運動でストレス発散をして、食事して、よく眠ることですね。いずれ死ぬんですけども、健康で、生き生きと生きていきたいなと思います。
TE
最後の晩餐には何が食べたいですか。
中村さん
うな重ですね。たれで2段重ねのものが食べたいです。
TE
ありがとうございました。日本の未来を担う子どもたちが遊んで学ぶ場を楽しんで作られていることがよく伝わってきました。皆さんもだいまるきょうとっこがくえんを応援してみませんか?