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笑って赤ちゃんと過ごすための休息の場と時間を

産後ケア施設 baby.mam SHIJO(ベビマム四条)

Activity活動内容

心に余裕を持って赤ちゃんと向き合うには、ママのケアが必要です。
ママも赤ちゃんも大切にされながらひとりじゃないと思える場所。

baby.mam(ベビマム)は、そんな産後ケア専門施設です。

育児に関する相談、睡眠時間の確保、沐浴・授乳のおさらい
24 時間対応の専門職スタッフがママのケアを行います。

Interview一人の子どもを育てるには一つの村が必要。さまざまな人の手を借りて子育てできる場所を

岩見香織さん
産後ケア施設 baby.mam SHIJO(ベビマム四条)

福岡県出身。京都市在住・3児の母。産後ケア施設baby.mam 代表。助産師。IBCLC(国際ラクテーションコンサルタント)。2020年、産後ケア施設baby.mam四条大宮にオープン。

『baby.mam(ベビマム)』は、京都・四条大宮にある産後ケア施設です。ここでは、産後間もないお母さんたちが宿泊をしてゆっくり過ごすことができ、保育士や助産師などの専門資格を持ったスタッフに育児相談をすることもできます。

沐浴など赤ちゃんのお世話の仕方、授乳に関する相談のほか、アロママッサージや骨盤ケアもオプションで利用することができ、お母さんがゆっくり過ごすことのできる体制を整えています。今回、代表である岩見香織さんにベビマムへの想いを中心にお話をお伺いしました。

ライター:黒木 萌
宮崎県延岡市生まれ、在住。大学卒業後、企業で総務、人事・勤労業務を経験。通信制高校サポート校での勤務を経験。文章を読むことと書くことが好きで、本に関するイベントを多数企画。最近の癒しは絵を描く(特に色を塗る)こと。好きな色は青で、春の海が好き。今年から始めた畑にほぼ毎日通っている。

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子どもたちに「産後、一人で頑張らないといけない」という思いをさせたくない

TE
岩見さんが「ベビマム」を開設するに至ったきっかけを教えてください。

岩見さん
私は、まず看護師として4年間働いて、その後助産師の資格を取りました。助産師として大学病院の周産期医療センターで10年と少し働いて、その中で、MFICU(母体胎児集中治療室)といって胎児とお母さんの救急治療室や、NICU(新生児集中治療室)、小児科や産科を経験してきました。

特にNICUでは、低体重児や多胎児など、さまざまなリスクがある赤ちゃんが生まれてきます。赤ちゃんはNICUで少しずつ大きくなって、お母さんはNICUに通いながら育児の練習をします。

NICUでは、赤ちゃんが自分の口でミルク飲めるようになったとか、少し大きくなったとか、お母さんたちはそういうことが一つ一つ嬉しいのに、自宅に帰って1ヶ月ぐらいして外来に来ると、疲れ果ててしまっています。

「赤ちゃんどう?」と聞いても、「疲れます」「しんどいです」という訴えがすごく多いです。赤ちゃんはかわいいのに、それを感じられないくらい疲れてしまっているお母さんにたくさん出会ってきました。

その中でお一人、NICU入院中から担当していたお母さんがいました。退院後も外来で会うたびにとても疲れている様子だったので、「無理しないでね」「休んでね」と伝えてはいたんです。具体的に私にできることは何もないんだけど、心配していることだけは伝えようと声をかけ続けていたある日、赤ちゃんが亡くなってしまったんです。それを見ていてとてもつらかったです。「お母さんがもっとゆっくりできていたら、防げたかもしれない」と思ってしまった出来事でした。

それと同時に私自身が妊娠出産をする中で、「助産師だから自分はできる」と思っていたことが案外できなかったり、産後自分ではどうすることもできないメンタルの変化で、つらい気分になったりしたことが度々ありました。

その経験を通して、「つらくても、自分一人で頑張らないといけない」と思っているお母さんたちがたくさんいることに改めて気づきました。そんな思いを、自分の子どもたちにはさせたくないと感じました。それで大学病院を辞めて、地域の中で助産院を開設して、お母さんたちの居場所を作りました。

開設して分かったことがありました。お母さんたちは助産院に来ているときは元気なのですが、家に帰るとまたしんどくなる人が多いです。そこでまず、お母さんたちは、しっかり寝ることが必要だと思いました。特に自分の睡眠と自分の栄養を犠牲にして頑張っている方がとても多くて、丁寧に話を聞いて、ケアできる場所が必要だと思って作ったのがベビマムです。

自立とは、他人に上手に依存しながら生きること

TE
「お母さんは頑張って当たり前」という感覚が社会の中にあるのかもしれませんね。

岩見さん
出産後はアドレナリンがたくさん出るので、お母さんたちはものすごく頑張るんですよ。出産前は、産後ひとりで育児をするとなると具体的にどういうふうに大変なのか、夜どれだけ眠れないか、ご飯を食べられないか、肩がバキバキになるまで抱っこしないと赤ちゃんは泣き止まないか、そういうことを生活の中で知っていく環境がありません。

昔はもっと、近所に生まれたばかりの赤ちゃんがいたので、一世代上の人たちはおそらく小さい頃に赤ちゃんを抱っこした経験があります。もう今は他人の赤ちゃんを抱っこする機会もほとんどない中で、自分の赤ちゃんが、その人にとって初めて出会う赤ちゃんなので、まったく初めての経験なわけです。

さらに高齢出産の方も結構いて、そうなると自分が計画してきた、自分の頭で考えて行動して成功してきたパターンが一気に崩れてしまいます。全部赤ちゃんのペースになっちゃうので。

こういうとき、お母さんたちは「他のお母さんたちがやっているからできるはずだ」と思うのですが、そうじゃないんですよ。初めてだからできないのが当たり前なんだけど、できない自分を母親失格だと感じたり、自信をなくしたり、自己肯定感が下たったり、悪循環に陥ってしまいます。

でも初めてだから、できるわけがないんです。それは当たり前なので、そこがもっと伝わったらいいなと思います。だから「いろんな人の手や知恵を借りて、赤ちゃんにはたくさんの人の手が必要なんだよ」と私たちは伝えています。「ひとりだけじゃ絶対無理だよ」「一緒にやろうね」と。

もしかしたら、他人に依存できないことが原因かもしれません。人を頼れなかったり、人に相談できなかったり、自分一人で何とかしようとしたりすることってありますよね。でも自立とは、上手に相互依存しながら生きていくことだと言われるように、社会で自立して子育てするにはたくさんの依存先が必要だと思います。

TE
赤ちゃんも生まれたてだけど、お母さんもお母さんになりたてだとホームページに書かれていましたよね。

岩見さん
産んだら母親になれるのかというと、そういうわけでは全然ないです。子育ては全てが初めてで、一人目を産んだお母さんでも二人目の子育ては初めてです。地域のさまざまな支援があって、さまざまな人と一緒に育てられると一番いいと思っています。

それがなかなか今の社会の中では難しく、特にコロナ禍でさらに難しいので、お母さんたちがどんどん孤独感を深めていっています。いま産後うつがすごく増えているし、産後の自殺もとても増えていて、拠りどころというか駆け込み寺的なところがあったらという思いで作っています。

「一人の子どもを育てるには一つの村が必要だ」と言われるぐらい、子どもはさまざまな人の手を借りながら育っていくものです。でも、ぜんぜん助けを求める手が伸びてこないし、支援の手も伸ばせておらず、支援が行政だけの役目になってしまっている面もあります。

近所のコミュニティの中で育てている意識がなかなか持てず、あるいは近所の人たちもやってあげたいけどどうしていいかわからない部分もあります。

ただ、子どもが育たないと社会は育ちません。産後ケア施設があることで、お母さんたちに「安心して赤ちゃんを産めるな」「出産後も頑張れるな」と思ってもらえる場所になったらいいなと思っています。
最終的には、社会全体で子どもを育てる仕組み作りがやっぱり必要です。さまざまな人が暮らしていて、お互い見守りあえて頼りあえる社会だと、もっと子育てもしやすいのでは、と思います。

育児をがんばっているお母さん自身がまず幸せで満たされてほしい

TE
皆さんの団体の活動で大切にされていることや、どんな思いを持って活動されているかを聞かせてください。

岩見さん
ベビマムの母体は「ワンドロップ」というチームです。助産師や保育士、看護師としての専門チームです。ワンドロップの由来は、もともと「ハチドリのひとしずく」という話から来ています。

虐待や少子化、産後うつなどさまざまな課題がありますが、私たちは私たちにできることをひとしずくずつ、その課題に向かってアクションしていくしかないよね、という意味が一つあります。

もう一つは、静かな水面にひとしずくが落ちたときに、波紋が広がっていくイメージです。目の前の課題は大きいし、さまざまなところでいろいろな人たちの手を借りないと変えていくことのできない社会ではあるのですが、でもまずは目の前のお母さんたちが笑顔になっていくことを目指して、そこから赤ちゃんだったりその家族だったりと、社会が少しずつ笑顔になっていくと感じています。

もう一つ、育児はミルクポットによく例えられます。赤ちゃんという器があったとしたら、お母さんが愛情というミルクを注いでいくイメージです。ただお母さんのミルクが涸れてしまうと、赤ちゃんに愛情を注げません。

理想としては、お母さん自身がすごく満たされていて、お母さんから溢れた愛情が赤ちゃんに注がれていく構図が素敵だなと思っています。そのためにまずはお母さん自身がしっかり満たされることです。

だからお母さんのミルクポットに私たちがいっぱいミルクを注ぎ続けようね、ひとしずくずつ注ぎ続けようねという意味を込めて、「ドロップ」という名前をつけていて、それはみんなすごく意識してます。目の前の人が笑顔になること。お母さん、育児をがんばっているこの女性がまず幸せで満たされるというのはすごく意識しています。

TE
お子さんに愛情を注ぐのはよく聞きますが、お母さんに愛情を注ぐんですね。

岩見さん
お母さん自身が大事にされて、ゆっくり休めて、いっぱいご飯を食べられて、のんびりできていたら、目の前の赤ちゃんや家族を愛おしく感じる気持ちは自然と湧いてくる方が多いと思います。

ふた昔くらい前の村の中で、集団で生活していたとき、産後は、日本でも床上げといって、3週間ぐらいは寝ときなさいよという期間がありました。お母さんはお母さんにしかできないこと、例えば母乳を飲ませることぐらいしかしていませんでした。あとは自分のトイレと、食事と。

赤ちゃんの世話はどうしていたのかというと、周りのおじいちゃんおばあちゃんとか子どもたちがしていました。お母さんはずっと休んでいたんです。からだが回復すれば、赤ちゃんは素直にかわいいんですよね。

ベビマムでも3週間~1ヶ月という長期のご利用の方がいらっしゃるんですけど、まず自分の体がしっかり落ち着いて、傷が治り、食事がしっかり食べられて、貧血が治ってくると、おのずと赤ちゃんのことに意識がいくし、余裕をもって関わることができるので、母子の関係性も安定していますね。見ている私たちも安心感があります。

美味しい食事も用意

今のお母さんたちは、本当に生活の目の前のタスクをこなすことが精一杯で、家のこともやらないといけない、赤ちゃんのことも、自分のこともやらないといけないとなったときに、自分の食事とか睡眠を削っていくので、自分が枯渇してしまって、赤ちゃんと一緒に、すこやかに生きていく感覚が湧く土壌ができにくいです。赤ちゃんは本来かわいいけど、「うるさい」と感じてしまうお母さんたちは、ご自身がすごく疲れています。

TE
団体を運営されていて、大変だったことはありますか。

岩見さん
お金のことですね。とても大変です。収益性が高いビジネスというわけでもないので、どういうビジネスモデルを作っていけばいいかということと、自分たちだけがやるんじゃなくて、全国に持っていける形にしたいと思っています。だから、ある程度収益バランスが取れれば、あとは同じモデル、同じスキームで、さまざまなところでやれる形に持っていきたいです。そうすればもっと産後ケアがたくさん広がると思っています。

生死に関わる仕事のなかで「明日死ぬとしたらどうするか」を意識して生きる

TE
最後に、テラエナジーならではの質問として、岩見さんの死生観について教えてください。

岩見さん
私の仕事は生の部分に関わっています。赤ちゃんが生まれてくるところに500以上は立ち会っていますし、赤ちゃんが生きて生まれてこないという場合もたくさん経験しています。その中で、生も死も大きな流れの一部でしかないと思っていて、それぞれが充実していればいいと思っています。

私の父は「孫の顔が見たい」とずっと言っていたんです。初孫が生まれるとき、嬉しすぎて福岡県の県内全ての神社に安産祈願に行ったりもするぐらい元気だった父親が、孫が生まれて半年で急に亡くなったんですね。それを見て、当たり前なんだけど、「人間は死ぬものだ」と実感をもって思いました。

いろいろな出来事が起こるけれど、それがいつ終わるか分からないし、いつかは終わるんだと思ったんです。そんな中で、常に死を意識することで命を全うするというか、生ききっていけたらいいなと思っています。

ラテン語で「メメント・モリ」というんですが、いつも死を思って生きています。節目節目に何か決めないといけないときに、いま死ぬとしたらどうするかなというのを意識しています。死を基準にすることで本質に近づけるというか、ぶれないのではないかと思っています。

―ありがとうございました!岩見さんの熱い想いが伝わってくるインタビューでした。子どもたちとお母さんたちのために活動する「ベビマム」を一緒に応援してみませんか?

団体情報

活動領域
産後ケア
活動中心地域
京都府京都市

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