Activity活動内容
国内外の教育機関・企業と共に、地域の未来を切り拓くプロジェクトを、地域の事業者・教育機関・自治体と連携して提供します。
里山の自然体験、伝統的な文化体験、サステナブルデザインやコミュニティオーガナイズについての教育プログラムを企画、実施しながら、地域が抱える課題を理解し、コミュニティに向け創造的に解決する事業を創出します。
Interview里山の知恵を世界につなげる
中山慶さん
株式会社ROOTS
「株式会社ROOTS」は京都・京北(けいほく)を拠点としながら、里山の知恵を世界とつなぎ、循環型地域経済モデルをつくることを目指しています。里山での自然体験、サステナビリティやコミュニティデザインについての教育プログラムを企画、実施しながら、地域が抱える課題を理解し、コミュニティに向け創造的に解決する事業を行う会社です。
今回は、ROOTSの共同代表の1人である中山 慶さんに、教育プログラムへの想いを中心にお話をお伺いしました。
- ライター:南 歩実
- 滋賀県生まれ。京都在住。
大学在学中にフリーペーパーの編集・営業に携わる。卒業後、ディレクターとして、webサイト制作、イベント、交通広告、編集などに携わる。
やる気と元気が取り柄。美味しいご飯と音楽と洋服と柴犬が元気の源。
高校から続けているギターはいつでもそばにいる。
自分がされて嬉しかったことを、海外の人にも体験してもらいたい
ー京北移住に至るまでに、どのようなお仕事をされてきたのでしょうか?
中山さん
東京に住んでいる頃は『風の旅人』という旅の雑誌で働いていました。自分自身も愛読者だった、写真と言葉の力が圧倒的なグラフィック文化誌で、面白いことに出版元は秘境専門の旅行会社だったので、8割は編集者の仕事をして、2割は添乗員として色々な国を訪れました。シリアやヨルダン、イスラエル、ブータン、アマゾン川、パタゴニアなど、本当にいろんなところに行かせてもらいました。
ー色々な国に行かれていたんですね。もともと海外に興味があったんですか?
中山さん
はい、雑誌の編集をする前には、クルーズ船で世界を周りながら、同時通訳をする仕事が初めての仕事でした。僕は日本生まれで日本育ちなんですが、異文化や海外というものに幼少の頃より興味が強くて、働き始めて以来相当の時間を仕事で海外に行って過ごしていました。20代だけでも多分60カ国ぐらいは行っていると思います。
ーそこからROOTSを立ち上げるまではどのような経緯があったんでしょうか?
中山さん
ちょうど30歳となる8年前に京北に移住したのですが、最初の半年間は、地域のNPOで雇用されていました。移住してきてから知ったんですが、京北って茅葺き(かやぶき)の屋根の家がもともとすごく多いんですよ。それでNPOで働いている頃に、地元の茅葺き古民家を宿にされるオーナーのお手伝いをきっかけに、自分もガイドの資格をとったりして、里山でのツーリズムを一から作っていきました。それがROOTSのツーリズム事業の前身となります。
自分自身も世界中を旅していて思うんですけど、最後に求めていく場所って、きっと観光地ではない田舎であったり、本当に現地で暮らすような体験をすることだと思うんです。だから、自分がしたかったことや、されて嬉しかったことを、海外の人にも体験してもらおうという想いで、ツアーを企画していきました。
ーどのようなツーリズムの内容になっているんですか?
中山さん
プライベートツアーという形で、トレッキングをしたり、職人さんの工房を訪れたり、地元の方のお宅で料理体験をしたりと、来ていただいた方々に里山の文化を体験してもらうツアーです。僕らはこれを「コミュニティツーリズム」と呼んでいます。そんなことをしている中で、ツーリズムと教育というものは相性がいいなということにだんだん気づき始めたんですよね。
中山さん
ツーリズムを行なっているうちに、次第にお客さんから「長期滞在ができないか?」「大人数で、自分の大学の生徒たちと一緒に来れないか?」という話を頂くようになりました。そこから、香港の学生とツリーハウスを作るプロジェクトや、台湾やオランダからデザインを学びたい学生が来たり、段々とツーリズムが教育プログラムにも進化していきました。共同代表である緋蘭(フェイラン)のソーシャルデザインの構想と、僕がやってきたコミュニティツーリズムっていうものが混ざり合って、ROOTSが出来上がりました。
普遍的な日本の原風景が根っこにあれば、人間は繋がっていける
ー何だかすごく自然体だなと感じます。中山さん自身がやって良かったと思うことを、そのまま事業化してるという感じですよね。
中山さん
そうですね。英語の無料講座を「里山スクール」と題して1年以上やってきているんですが、講座をやるというと「おいくらですか?」と聞かれるんですが、「いえいえ、よかったら家に余ってるお野菜とかお米で払ってもらえたら(笑)」と、皆さんの参加しやすい形で、継続しています。、やっぱり僕らの仕事は、地域の人たちあってこその仕事なので、日々皆さんとお話する機会があればいいなと思っています。
ーなるほど。そう感じたきっかけはありましたか?
中山さん
ある方の言葉で印象に残っているものがあります。「目に見える田んぼや山というのは、観光客のために存在している訳じゃない。日々の暮らしの営みがあって、田んぼや山や川の綺麗な水は保たれている」まさに、人と自然との繋がりがある暮らしの場が「里山」という環境なのだと思います。だから、ツーリズムに関係する人間というのは、フリーライダー(対価を払わないで利用する人)であってはいけないという感覚があるんです。
ー素敵な考え方ですね。最近、ROOTSで力を入れているプログラムは何かありますか?
中山さん
最近は、産業そのものが元気になる教育プログラムができないかと考えています。
例えば、海外のデザインの学生と一緒に、地域の林業が抱えてる課題をリサーチして、そこからどういう形のプランを作ることができるかを考えたり。
京北に来られる海外の方は、こぞって、この土地のの風景を見て感動されます。特に、アジアの方々は「トトロの世界だ!」って(笑)。そういった国境をも越える、普遍的な原風景が根っこにあれば、人間は繋がれる。そういう暮らしの文化がここには残っていると感じます。
ーそんな中で、何か印象に残っているエピソードはありますか?
中山さん
香港理工大学と行なっているツリーハウスプロジェクトがとても楽しかったです。最初、30名の学生さんを募集したら、120名の応募が来たんですよね。だから、1回きりで終わらせずに「3カ年計画で、ツリーハウスを3つ作りましょう」というプロジェクトとなりました。でも、ツリーハウスの1つ目が出来上がって、来年は2つ目も作るぞ!というところでコロナが来てしまいました。
そこで、林業をテーマに、京北の木材をどう活用していけるかを考えるオンラインでの教育プロジェクトに変更しました。その成果物として、現在にもつづく「LOGIN(ログイン)」というプロジェクトが生まれていったんです。
中山さん
このプロジェクトをしていた時は、オンライン越しでも学生たちのエネルギーをすごく感じました。
この時期の香港は、香港民主化デモの真っ最中でした。世界中のゲストや学生たちと関わるこの仕事をしていると、世界情勢を本当に自分ごととして感じます。デモが激化して、自分たちの街で火炎瓶や催涙弾が飛び交っている最中に、彼らは遠く離れた日本の里山のこれからのことを、本気で考えてくれていました。オンライン越しであっても、これだけの熱量を感じることができて、自分の人生にとっても忘れられない体験となりました。
変わりゆく状況の中で、自分たちの発想を柔軟に変えていくことの大切さ
ーオンラインでのプロジェクト経験が、また新しい繋がりになりそうですね。
中山さん
そう思いますね。ROOTS自体、旅行業の会社でもありますが、コロナ禍にあっても、いろんな形にトライしながら、今は健やかに乗り切られているかと思います。共同代表という形がすごく良いなあと思うのが、経営者同士がしっかりお互い相談できて、その納得感の上で意思決定をして、責任を分かち合えること。
コロナに限らず、経営を取り巻く環境の中で、自分たちの発想や行動を柔軟に変えていくことは、旅と似ているなと感じます。旅というのは、刻一刻と変わる未知の環境の中で自分の限られた情報を精査し、直感を研ぎ澄ませて決断・行動していくことだったので。事業も、環境と自分たちを調和させていくことがとても大事ですね。
ーきっと20代からずっと海外で色んな経験をされて、旅をし続けたからこその柔軟さですよね。
中山さん
僕の場合、3.11を東京で体験していることも大きいと思います。当然、旅をしながらも自分の常識が覆される出来事は多々ありました。来るはずの電車が4時間経っても来ない(笑)とか、マイナス30度の真夜中に宿から追い出されるとか。
だから、東京で3.11を経験したとき、震災、原発事故の緊急事態の中「世界って次の瞬間どう変わるか分からない」と深く自分の中で体感しました。その後しばらくして日常が戻り、何事もなかったかのようになりましたが、自分の中ではずっとこの感覚が残っており、今のコロナ禍で「ああ、あの時と似ているな」と改めて感じました。
ーありがとうございます。今後、テラエナジーに期待したいことはありますか?
中山さん
例えば、てんぷら油カーの導入など、オフグリッド(電力会社に頼らず、電力を自分で発電し自給自足すること)を実践していける方法を教えてもらいたいです。それこそ、テラエナジーさんと一緒に作るみたいなことでもいいし、テラエナジーさんの知恵をシェアして頂けたら嬉しいです。
あと、京都自死・自殺相談センターSottoの理事を、テラエナジー代表の竹本さんがされているというお話を聞いた時、僧侶の皆さんが自死相談をされてるっていうことにすごく意味を感じました。
今日のインタビューも、テラエナジーさんの醸し出してる雰囲気のせいなのか、普段のインタビューよりも深く話したくなる感じもあって。
教育プログラムや宿泊の施設を運営している人間としては、皆さんが持っている仏教的な智慧みたいなものも含めて、何かしらの形でご一緒できたらと思います。その中に、電力もテーマとして入れられると、面白いなと感じました。
ーありがとうございました!20代の頃から様々な経験をされており、世界中の文化に触れている中山さんだからこそ出せる柔軟さと多様性を感じたインタビューでした。どのプロジェクトも講座も、中山さんという人の経験や考え方に魅了された人々がたくさん集まってくるから、こうして続いているのではないかなと感じます。中山さん、本当にありがとうございました!