Activity活動内容
私たちは、日本の政府、企業、市民生活が関わって起きている環境・人権問題を、日本に住む私たちの力で解決しようと取り組んでいます。
3.11の直後から、福島原発事故被害者への支援や、脱原発・脱石炭等エネルギーシフトを求める活動に注力してきました。
また、ますます深刻化する気候危機についてClimate Justiceの観点から活動しています。
影響を受ける人々の声を聞き、市民の視点で、市民とともに政府や企業に働きかけています。
Interview地球上のすべての生命がバランスを取りながら心豊かに生きる持続可能な社会を追求する
吉田明子さん
国際環境NGO FoE Japan、パワーシフト・キャンペーン代表
2007年より国際環境NGO FoE Japanスタッフ。気候変動やエネルギー政策を中心に担当。2015年に市民のちからで再エネ選択を呼びかける「パワーシフト・キャンペーン」を立ち上げる。エネルギー政策に市民の声を届ける観点で活動する。
「FoE Japan(エフ・オー・イー・ジャパン)」は、地球規模での環境問題に取り組む国際環境NGOです。世界74ヵ国に200万人のサポーターを有する「Friends of the Earth International」の加盟組織として、日本では1980年から活動を続けてきました。
FoE Japanは、地球上のすべての生命(いのち)がバランスを取りながら心豊かに生きることができる「持続可能な社会」を目指して活動しています。今回は、気候変動・エネルギー担当の吉田明子さんにお話をお伺いしました。
- ライター:黒木 萌
- 宮崎県延岡市生まれ、在住。大学卒業後、企業で総務、人事・勤労業務を経験。通信制高校サポート校での勤務を経験。文章を読むことと書くことが好きで、本に関するイベントを多数企画。最近の癒しは絵を描く(特に色を塗る)こと。好きな色は青で、春の海が好き。今年から始めた畑にほぼ毎日通っている。
持続可能な暮らしを目指して自分にできることを
TE
吉田さんがFoE Japanに関わるきっかけは何だったんですか。
吉田さん
大学生のときに環境問題に関心を持って、環境団体でインターンやボランティアを調べているときに見つけました。今のままの「大量生産・大量消費」の暮らしではもう持続可能ではない、「このままだと地球はどうなってしまうんだろう」と考えていて、それを変えたいと思ったんです。変えるにはどうしたらいいのかということをいろいろ考えたり探したりしている中で、自分にもできることをと考えました。
TE
学生のタイミングでそう思うようになった原体験はありますか。
吉田さん
1990年代、京都会議やリオサミットなどもあり、日本でも世界でも環境問題への注目が高まり始めた頃だったんじゃないかと思います。実際にはもっと前からあった問題だと思うんですけれど、高校生のときにテレビで衝撃的な映像を見たり本を本を読んだりする中で「大丈夫かな」と不安に思っていました。
TE
大学でもそういう学科で勉強されたんですか。
吉田さん
そういう授業を取ったりはしました。世界の砂漠化や人口爆発などの衝撃的なテーマもありましたし、一方でドイツではこんなリサイクルの取り組みがあるというような話もありました。
TE
最初はボランティアがきっかけですか。
吉田さん
ボランティアかインターンでした。インターンでは、夏休みの間は月に数回です。ドイツなどの環境への取り組みを勉強したり、ファストフード店などの使い捨て容器をなくすためにはどうしたらいいのかという議論をしたりしていました。
その頃は今と全く違って、まだまだ自然エネルギーはほんの少ししかないという状況でしたけど、それを増やすにはどうしたらいいのかという話もありました。
新電力に対する市民の「心の壁」に「種まき」をしていく
TE
現在では世界中で環境問題に取り組むべきと言ってますけど、もっと以前から活動されてたんですね。FoE Japan自体がもともとそういう方向性を持っておられるんですか。
吉田さん
FoE Japanは1980年に設立されて、その頃からいる人は少ないですけれど、最初は「開発金融※1と環境」をメインに活動していたそうです。日本がODA※2で途上国にダムを作ったり、発電所を作ったりして、それが「支援」という名目で行われているけど実際には支援になっていないよねという観点です。
2000年ぐらいから森林保全や気候変動の活動などが始まって、だいたい今やっている形になってきた感じかなと思います。
※1「事業開発等金融」。開発途上国などによる事業・輸入に必要な資金や、途上国の国際収支のバランス、通貨の安定を図るために必要な資金を供与するもの。
※2「政府開発援助」。途上国の開発を目的とした政府・政府関係機関による国際協力活動。
TE
これまでにいろんなトピックがあったのですね。吉田さんがメインで担当しているものもあるんですか。
吉田さん
私は脱原発と気候変動に主に関わっています。エネルギー政策を中心に両方に取り組んでいる感じです。
TE
そこに一番の関心が向いたのには、どうしてでしょうか?
吉田さん
私がスタッフになったのは2007年からで、当時も気候変動のことが盛り上がっていて「気候変動を止める法律を作ろう」と活動していました。今の盛り上がりとは比べ物にならないくらいで小さかったとは思うんですけれど、いろいろな団体をネットワークしてさまざまなことしていたんですよね。
2011年の原発事故の後に、あれだけのことがあって日本のエネルギー政策をどう変えていくかということで、エネルギーや気候変動のことをやっている団体だけではなくて国際協力や女性に関する団体など、かなり幅広い団体がいろいろな形で一致団結していました。そこからの流れで、今も私自身は取り組んでいるという感じです。
2011年は脱原発、福島支援ととにかく忙しくいろいろやっていました。2012年にエネルギー政策の大きな議論があって、そこで「たくさんの市民の声を届けよう」と活動しました。
「2030年代に原発ゼロにする」ことが2012年に一旦決まったんですよね。しかし政権交代でそれが全て反故にされて、白紙から見直すことになってしまいました。2013年以降もいろいろ活動していたんですけど、いくらたくさんのパブコメを出しても響きませんでした。
2014年ごろからは秘密保護法のことなども出てきて、だんだん必ずしも脱原発だけがみんなの関心じゃなくなってきたんですよね。そこで「次にどうしよう」という話をしてる中で「電力自由化」の話が見えてきて、政策に声を届けるのと同時に、消費者として需要の方から変えていくことと両方やっていきたいよねということで、2015年の3月に自然エネルギーを中心とした持続可能なエネルギー社会にむけて力(パワー)をシフト、変えていこうという!という「パワーシフト・キャンペーン」活動をスタートしました。
2016年には、この話題ですごく盛り上がったんですよね。「再エネを選べるか選べないか」と注目されたんですけど、2016年4月当初は再エネの電力会社がほとんどなかったんです。盛り上がっているのに実際に買える会社がほとんどないという状況でした。
2016年の後半ぐらいから「みんな電力」※3や生協などが再エネを重視する電気の販売を開始し、その後も地域新電力などが次々と立ち上がり、今は選択肢も広がっています。ところが世の中の関心はちょっと薄れて、その中で再エネの新電力は市民向けの販売には予想以上に苦戦しています。すごく注目はされたけど、市民の間には誤解や様々な「心の壁」があるなということを感じています。
※3 現在は株式会社UPDATER。「電力の地産地消」および「顔の見える電力」の普及を進める再エネ新電力。
TE
「心の壁」とは具体的にどういうものですか。
吉田さん
たとえば、脱原発の活動をしていてエネルギーシフトをしたいという人でも意外と新電力に切り替えていなかったりするんです。それは「何となく面倒くさい」という場合もあるし、「再生可能エネルギーの会社にはどこがあるのかわからない」という場合もあります。
全面自由化してからもう7、8年も経っているので少しずつ浸透してきてはいるんですけれど、電気の切り替えを実行するまでに人によって数ヶ月、1年、2年とかかったりします。やってみるととても簡単なのですが。
TE
活動していて苦労していることはありますか。
吉田さん
「心の壁」があるからなのか、実際に行動に移してもらうことが簡単ではないと感じます。でも「種まきをしていく」ことで、数ヶ月後にすごくスローだけれども変わっていくことはあるので、全くの徒労ではないんだけれど、とにかく時間がかかります。
資本主義の歪みにいかに向き合うか 他団体と繋がってシステムチェンジを目指す
TE
最近の世の中の動きに対してどんなことを感じておられるのか、ぜひお聞きしたいです。
吉田さん
コロナ禍以降、FoE Japanでは「システムチェンジにどうやって取り組んでいくか」をずっと議論しています。私たちが今言い始めたことではなく、FoE International ※4などではずっと前から言っていたことではあるけれども、コロナ禍で格差や不平等がより露呈してきた現実がある中で、それに対してやるべきことと気候危機の状況に対してやるべきことは、実は共通しています。
また、気候危機対策やエネルギーシフトでやるべきことも、数字上のCO2削減や再エネの導入にとどまらず、もう少し広く社会全体の仕組みを変えていくということと合わせて考えていけたらと去年からずっと議論を重ねています。
「気候危機とコロナ禍からのシステムチェンジを」と、連続の勉強会も2021年度に実施しました。その中で、これまで私たちは環境団体で、環境のことを中心に活動してきたんですけれど、「他の団体の人ともっと意見交換をして一緒にやっていけないか」と貧困問題や労働問題に取り組んでいる人たちの話を聞きました。
世界の気候変動のムーブメントを見ても、アメリカの「サンライズムーブメント」※5やCOPの市民などでも、そのメッセージは同じなんですよね。グローバルノースとグローバルサウスの格差もあれば、国内の格差もある。そういう格差を正していこうという意味のクライメート・ジャスティス※6が叫ばれています。
日本でも同じだと思うんですよね。単に「カーボンニュートラル」とか目標の引き上げとか再エネの目標とかを掲げればいいということではなくて、それを実現するにあたってこの資本主義社会の歪みにいかに向き合っていくか。非常に難しいんですけれど。幅広く繋がっていきたいし、そういう広い意味でのシステムチェンジを実現していきたいと思います。
※4 世界73カ国に200万人のサポーターを有する環境団体。FoE Japanはこの団体のメンバー団体
※5 2017年にアメリカで立ち上げられた環境団体。強力な気候変動対策を通じた雇用創出(グリーン・ニューディール)を訴求している
※6 気候の公平性運動:先進国の住民が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした温暖化への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みによって、温暖化を解決しようとするコンセプトの環境運動
ローカルの価値を見直して「脱成長」に転換 つながりのある社会に
TE
吉田さんのイメージでは、今がどういうシステムで、どんなふうに変わっていったらいいと思っていますか。
吉田さん
今のシステムは「効率優先経済」です。価格や安さ優先で、そのためにいわゆるグローバリゼーションで途上国、もしくは日本国内でも地方から搾取する構図になっていると思います。だからその価値観をいかに変えていけるかなんですけど、そのときにやっぱりローカルな地域の繋がりのような、身近にあるものを見直していくのが重要なことの1つなのかなと思っています。
速さ・効率・安さとかではなく「脱成長」に転換していくにあたって、ローカルの価値を見直していくことがすごく重要だとコロナ禍に改めて実感しました。そう考えるとお寺の地域の繋がりや、人だけじゃなくて物や文化、資源などを見直して繋いでいく動きが脱成長に繋がっていると腑に落ちました。それを今後加速して広げていくのを皆さんと繋がってやっていきたいです。
TE
「脱成長」というと、成熟していくみたいなイメージでしょうか。
吉田さん
そうだと思います。そういう価値観の見直し、いわゆる成長・効率・速さ、「スケールメリット」のように「大量に安く」じゃないものです。
TE
吉田さんが思い描く「幸せ像」はどういうものですか。
吉田さん
「繋がりが見えること」に幸せを感じられると思っています。たとえば家族や同じ学校・職場の人だけではなくて、地域の人、私たちの暮らしを通じてお世話になっている人たち、各地の人、あと海外の人とかもそうだと思うんですけれど、家族・友達にとどまらないさまざまな繋がり、顔が見えていくことで安心も得られるし、単に楽しいと感じられるんじゃないかなと思っています。
TE
個人的なことをお聞かせいただきたいです。最近一番感動したことは何ですか。
吉田さん
住んでいる地域に知り合いができてきたことです。地域の人って普段の生活の中ですれ違ったり会ったりできる関係ですよね。地域にそういう知り合いがいることでどこか安心できます。
約束しなくても商店街でばったりとお会いしたり、イベントにも自転車で気軽に行けたり。顔の見える関係が嬉しいです。町は小さいですけれど、温かみや安心感があります。
短い一生の中で、日々を大切にして生きたい
TE
活動をしている中で、面白かったことはありますか。
吉田さん
2016年ごろ、世間の関心がすごく高く、それまでになくたくさんの問い合わせをいただいたり、リーフレットを各地でたくさん配ってもらえたり、各地の市民団体が勉強会を開いてくれたり、広がりが感じられたことは嬉しくて「こんなにたくさんの人が期待しているんだ」と感じました。
一旦それは落ち着いたんですけど、また新しい波というか、気候危機を背景に若い人、「Fridays For Future」 ※7の学生さんや、インフルエンサーの小野りりあんさんなど、そういった新たな人たちが関心を持ってくれています。
だから今また、新しいつながりがどんどんできてデザインやInstagramでの発信など、新しいやり方でそれぞれに伝える人たちが周りに出てきていることで少し勇気づけられています。
※7 2018年、スウェーデンで当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんが国会前に座り込みを始めたことから始まった環境運動。日本では2019年2月から開始。
TE
最後に「死生観」についてお聞かせください。
吉田さん
たとえば核のゴミの放射能対策を10万年やっていかなければいけないとか、そういう時間軸で考えたときに人の一生は本当に短いと感じます。その中でできることは限られているけれども、70年80年という人にとっては決して短くない日々を大切に、1年1年を大切にしていきたいです。
少し前に、祖父母が亡くなりました。最近は認知症になって老人ホームに入って死を迎える方も多いと思うんですけれど、だんだん認知が薄れていっても家族や親戚、友達などが訪ねていくと少しわかったとか、そういう繋がりが感じられると、たぶん高齢者も安心できるんじゃないかな、そういう繋がりがあって最期を迎えられるといいんじゃないかと思います。
TE
「こんな死に方をしたい」という理想はありますか。
吉田さん
穏やかに死んでいきたいですけど、まだ先かなと思います。
TE
ありがとうございます。あなたもFoE Japanを応援して、一緒にシステムチェンジを目指しませんか?