Activity活動内容
「ツクル森」アート・クラフト・世界の音楽会。
ツクル森は作家もお客様も想像が溢れ出る喜びを感謝する場。
その地にある材を使い、個性豊かな小屋を建て、原っぱや森にアートを展開したり、自然素材を使って楽器をつくりプロのミュージシャンと共に奏でたり。
「創る手」を持つ大人たちが思いっきり楽しむことで、子供たちが創る喜びを体験する。
そんな皆さまと共に、あうるの原っぱにここにしかない景色を共創します。
Interview多様な創造の力をもちよって行われる、京北のお祭り「ツクル森」
曽緋蘭さん
ツクル森
京都・京北で年に一度開催される、アート・クラフト・世界の音楽会「ツクル森」、2018年には延べ4,000人を超える参加者で賑わいました。お互いの「違い」に対する感謝とリスペクトが大切にされている温かな空間と時間が楽しめるツクル森。
このステキなお祭りを主催するツクル森代表の1人であり、デザイナーでもある曽緋蘭(ツェン・フェイラン)さんに、ツクル森に込められた想いや、そこに集う人たちについてお話を伺いました。
- ライター:藤井一葉
- 兵庫生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶。
若手僧侶のグループ・ワカゾーで死をカジュアルに語る場「デスカフェ」を提供。これまでに仏教やお寺にご縁のなかった方への情報発信ウェブサイト他力本願.netの企画運営に携わる。
日本茶を淹れたりと本を眺めているとほっとする。仏様のお話をさせていただくことも。TERA Energyでは、メルマガも担当。
音楽をカラダで聞くという感覚 音楽の響きで体が開かれていく
ーツクル森を始めたきっかけは何ですか?
フェイランさん
10年ほど前から、京北の茅葺き(250年前に建てられた)古民家に住んでいます。とても美しい家なので、みんなにシェアしたいと思い、この自宅でおよそ7年間で40回ほどイベントを行いました。イベント内容も様々で、アイヌ民謡を聞いたり、地域のジビエ料理を味わいながら、地元農家さんから在来種の種の話を聞いたり。この京北の古民家でみんなと過ごす時間がとても豊かだと感じました。
京北の古民家でのイベントは、「すごい気持ちいい」「いいよね」と素直な感覚や気持ちが開放されて、豊かさを自然体で感じることから始まります。そこから自ずと現代社会がもつ課題に気づきます。その原風景の中にある豊かさから始まる気づきは、田舎の環境でなくては体験できない価値です。
ー茅葺きの古民家でのイベントに参加してみたくなりました。そこから、ツクル森に繋がるまでどんな経緯があったのですか?
フェイランさん
始まりは、音楽家のきしもとタローさん、熊澤洋子さんをお招きし「世界を奏でる音楽会」というイベントを茅葺で一緒に創り出したのがきっかけになっています。いま思うとそれがツクル森の源泉だったように思います。きしもとタローさん・洋子さんは世界各地の音楽文化に関心を拡げ、心が深く共鳴する音楽や楽器を探求されています。
「世界を奏でる音楽会」は、世界の国々の物語と音楽を通して、その国の文化を体験し、世界の国々を旅するという趣向です。音楽の歴史や文化を知り、世界中の音楽を聴いていると、ちょっとずつ似ているところや混じりあっているところがあることに気が付きます。それは食と同じように、音やリズムが国と国というくっきりとした境やボーダーを超え、互いに影響し合い音楽ができあがるという感覚がありました。
このイベントで出会った音楽は、資本経済で売りやすいパッケージ化されたCDやAメロ・Bメロ・サビといったテンプレート化された音楽とは全く異なる文化体験で、音楽の奥深さや体験価値の違いに驚かされました。
ーその様な感覚で音楽を感じたことはないかも知れません。とても興味深い感覚ですね。
フェイランさん
実は私自身、茅葺で音楽イベントをやり始めた当初、インドのシタールの様なゆっくりとした音楽を聞いた時に「え、遅い……」とその音楽の豊かさを感じる事ができませんでした。それでも、何度も味わっているうちに、だんだんと音楽そのものの豊かさを感じる様になっていくのがわかりました。例えるならば、化学調味料のパンチの効いた味で鈍感になっていた舌が、自然素材の料理を繰り返し味わうことで、だんだんと素材本来の味をわかってくるような感覚でしょうか。
同じような感覚が音楽にもあるんだなと知りました。頭で聞くのではなくカラダで聞く。身体に響いていく音楽によって、体が開かれていく体験が、とても大切だと思いました。
「違い」への感謝とリスペクト。本気で遊ぶ大人たち
ーその感覚が、ツクル森につながっていくのですね。どの様にツクル森に展開していったのですか?
フェイランさん
元々、あうる京北(京都府立のゼミナールハウス)さんの主催する、京北の作家さんたちを招いた「京北クラフト」というクラフト展があったのですが、これを次の時代に向けた新たな企画にしていこうという機運が高まっていました。京北には、クラフト作家だけでなく、面白い音楽家や農家、林業家など、ゼロからイチを「ツクル」人たちが揃っていることに気付いたんです。
そのために、まずはその「ツクル」力を見える化したいと思い「ツクル森」という言葉を創りました。今では色々なジャンルのクリエイティブな人たちが集うサロンの様になっています。「クリエイティブ」というカタカナを使うと特別なスキルを持った人のイメージがありますが、元々住んでいる農家さんや林業家さんもとても創造的な方々です。かれらのような「百姓」は英語にすると”a man of hundred skills”、百の姓(スキル)を持つ多才でクリエイティブな人たちなんです。
ツクル森の場が、「みんな違って、みんないい」という場所になっていたらいいなと思います。お互いの「違い」に対する感謝とリスペクトを大切にしていきたいです。
ー”a men of hundred skills”はかっこいいですね。ツクル森はどんな想いをもって、活動されているのですか?
フェイランさん
出店者たちがこのイベントで『なんぼ売れた?』という会話自体をなくそう!と8人の理事のメンバーと話しています。ツクル森はマーケットではなくみんなの願いを叶える場所。自分たち自身が1番に楽しんで、そこにファンが集まってくる感じです。
ツクル森は、自発的に生まれ、民主的に楽しむための場として始まりました。なによりも京北・美山のツクル人たちが自らの創造が発揮できて誇りに思える場所でありたい。どんなに参加者が増えても、有名になる事を望んではいません。自分たちが楽しんでこそやる価値があるのだと信じています。
ー4000人規模の大きなイベントを8人で運営するなんて、すごい力のあるメンバーですね。少人数でこれほどのイベントを開催できるなんて、どうやっているのですか?
フェイランさん
京北は面白い土地です。このツクル森のイベントは、私たちにとって仕事ではないのです。それでも、平日の昼間からスタッフが集まり、井戸端会議のように話ができる土地柄なのです。都心だったら平日の昼間にビジネス以外でこんなことやれませんよね(笑)。京北には本気で遊ぶ大人が沢山います。どうせやるならしっかりやる。本気の流しそうめんとか、本気のBBQとか(笑)。そのパワーがすごいです。
でもツクル森は実際ギリギリの運営なので、スタッフ募集中です(笑)!
ーツクル森のイベントを開催してきて、嬉しかった事はありますか?
フェイランさん
参加者の方が「来た瞬間に心がほぐれた」「子どもが一人で遊びまわっても、安心できる場所」という声を聞いた時に、とても嬉しくなりましたね。温かな居場所になっているなと感じました。
それから、去年は軽食の出店が多く、参加者のご飯類が少し足らなくなってしまったんです。「なんで軽食ばかりだったの?」と、京北の外からきた店主と話していたら「京北の地元出店者が儲かるほうが良いかなと思って軽食にしたんだ」と話すのを聞いて、「ツクル森、育ったな〜」と感慨深かったです。
普通、イベントへ出店するのであれば、自分の店が儲かることを何よりも優先すると思いますが、地元の方を優先して考えてくれる共助の意識に驚きました。
こうした変化は狙ったことではなく、奇跡だと思っています。ツクル森には、他者の利益を大切にする、慈悲の心があるように感じて、とても嬉しくなりました。
誰しも持ち合わせる固定概念を、デザインで解いていく
ーテラエナジーを知った時の感想を教えて下さい。
フェイランさん
最初はテレビの報道で聞いて「エネルギーが増えていくイメージの1兆倍を表す語のteraと地球のteraとお寺と……うまい!」と思いました。寄付つきでんきというアイデアが新しいし、それに、持続可能な再生可能エネルギーを使って、新しい社会をつくっていくことをお坊さんたちがやっていくと聞いて、「すごいな。うまい!」という印象でした。
そこから、テラエナジーに変えたいなと思っていたら、友人からも薦めてもらい、グリーンウォシュ的なプロモーションではなく、本質的に再生可能エネルギーを使う会社なんだと改めてわかりました。
ーグリーンウォッシュのことや、ツクル森が自発的に生まれ、民主的に楽しむための場として始まったと言われていたこともですが、自分たちで考え、問いをもって動いていく力強さを感じました。こうした姿勢は昔からですか?
フェイランさん
私は元々、大阪西成生まれの在日台湾人でした。そうしたアイデンティティで子ども時代を過ごしたので、ボーダーを超えて自立する意識は小さい頃から強かったと思います。マイノリティ側なので、アンフェアなことに対する苛立ちやその感度も高いので、できるだけフェアにしたいという思いがあるのかもしれません。
ーそのアイデンティティは、自然と意識されていたのでしょう?
フェイランさん
意識するしかなかったですね。「始めまして、曽緋蘭(ツェン・フェイラン)です」と自己紹介すると、悪気なく「日本語、お上手ですね」から始まります。そこからの判断でしか、コミュニケーションが始まらないんです。
例えば、お店で「曽(ツェン)です」と言うと、店員さんに「え?なんていう名字ですか?」と必ず聞き返されます。そこから「中国の人ですか?日本語お上手ですね」とかなって、その説明に10分もかかるはめになったり……(笑)それが、結婚して井上に名字が変わり「井上です」というと面白いほど一瞬で終わるようになりました。
一方で、多様な人種が集まるサンフランシスコにいた時にはそういったことはなく、「あなたの名前を正確に発音したいから教えて」とか、“what’s your background?”(あなたの生い立ちを教えて)と聞かれ、聞き方にとてもリスペクトがありました。サンフランシスコ滞在経験のおかげで私自身、すごく楽になりました。知らずしらず、ある種の十字架を背負っていたところから開放された感じがありました。
ーフェイランさんが日々の生活で大切にしている事を教えて下さい。
フェイランさん
破壊と創造でしょうか(笑)。
私はデザイナーとして働いています。デザインには色んな考え方がありますが、私はデザインは「今あるものを深く理解し、解体して、意味を再定義すること」だと捉えています。デザインする事で新たな意味や方向性が生まれると思っています。固定概念を手放し、新しい意味づけをして、そこに新たなエネルギー(生命)が宿ってくる感覚です。
人には、それぞれステレオタイプ、固定概念があると思いますが、その固定概念をほどいていくことが、新しい理解や行動につながります。そのためにデザインがあると考えています。固定概念を解きほぐす作業を言葉だけですると対立や争いが起こり易くなりますが、そこにデザイン(共に共有できるイメージやビジョン)が媒介することで、スムーズに変化が起きやすくなるのです。
ーありがとうございました!フェイランさんの幼い頃から持っていた感性が、様々な文化や人との出あい、それに沢山の経験により育まれ、それが「ツクル森」のイベントの温かさに繋がっているのだと感じました。のびのびと心と身体を開いてもらえ参加した一人ひとりに温かな居場所のある、ツクル森にぜひ参加してみませんか。ツクル森2021の歩みはすでにはじまっています!