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本の力を、生きる力に

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会

Activity活動内容

シャンティは、難民支援に端を発して僧侶が中心となり1981年に設立された、アジアで子どもたちへの教育文化支援や災害時の緊急人道支援を行う日本生まれのNGOです。

「学ぶための本や教材」「学びを届ける人」「安心して学べる場所」「学びと出会うための活動」という4つの要素から、学びが生まれ、続く仕組みづくりに取り組んでいます。私たちが目指すのは、本に触れる文化づくりと、教育の質の向上です。

Interview国籍や宗教、宗派や思想の垣根を越えて支援する

山室仁子さん
公益社団法人シャンティ国際ボランティア会

2006年、シャンティ国際ボランティア会が実施しているNGO海外研修プログラムに1か月間参加。2008年、大学院修了後、シャンティに入職。カンボジア事業担当等を経て、ラオス事務所に3年間駐在。2022年、事業サポート課チーフとして事業支援窓口を担当。

「公益社団法人シャンティ国際ボランティア会」は、すべての子どもに教育を届けるため、アジア7カ国8地域で教育文化支援、緊急人道支援を行っています。

紛争が続く地域や少数民族が暮らす地域で、現地の言葉で書かれた本や教材の出版を行ったり、子どもたちが安全に学べる場所を住民と一緒に作ったりしています。今回、山室仁子さんにお話をお伺いしました。

ライター:黒木 萌
宮崎県延岡市生まれ、在住。大学卒業後、企業で総務、人事・勤労業務を経験。通信制高校サポート校での勤務を経験。文章を読むことと書くことが好きで、本に関するイベントを多数企画。最近の癒しは絵を描く(特に色を塗る)こと。好きな色は青で、春の海が好き。今年から始めた畑にほぼ毎日通っている。

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国籍や宗教、宗派の垣根を越えて

TE
シャンティはもともとは曹洞宗の事業だったんですよね。

山室さん
はい。最初は、「曹洞宗東南アジア難民救済会議(JSRC)」という2年の期限付きの事業でした。当時、カンボジア難民の方がたくさんいらして、何かできないかということで、僧侶の方が行かれたのがきっかけです。

しかし、期限が来てその事業を終了するときに、まだまだたくさんの課題がありました。「目の前の人たちを見ると、撤退することなんて到底考えられない」と、僧侶の有志が今から40年前に「曹洞宗ボランティア会(SVA)」を発足しました。

そのときの会員第1号はクリスチャンの牧師の先生でした。会員番号1は今もその方で、宗派や宗教の垣根を越えて継続してご支援いただいています。

その後、社団法人化するときにそれに代わる法人名を考え、インドのサンスクリット語で平和や静寂を意味する「シャンティ」という言葉を当てて、「シャンティ国際ボランティア会」になり、今に至っております。

TE
会員の第一号がクリスチャンだったということがすごく興味深いんですが、最初からそういう方向性があったんですか。

山室さん
そうですね。立ち上げに関わった中心となるメンバーは、国籍や宗派が問題ではなく、「仏教の根本を考えたときに私たちはどうあるべきか」に忠実に生きたいという姿勢がありました。

1991年にカンボジアに事務所を設けて活動しはじめました。そこでは9割がカンボジア民族なんですが、一部イスラム系の方もいます。イスラム圏の方が多い地域で、支援が早急に必要とされているところがありました。

当時のシャンティの職員もご支援者の皆さんも、「仏教だろうがイスラム教だろうが、宗教は関係ない」と言っていました。その後アフガニスタンでも活動するのですが、そこでも国籍や宗教にとらわれず活動していました。

TE
すばらしいですね。

山室さん
支援者の皆さんも同じ気持ちでいてくれるということがうれしいです。職員も仏教関係者だけでなくさまざまな方がいます。

学校を「建てた後」に違いが出るシャンティの支援

TE
山室さんがカンボジアに興味を持たれたきっかけはなんですか。

山室さん
母校の文化祭で、カンボジアに学校を建てようという企画がありました。しかし高校生が自分たちで何百万円も集められるわけがなく、卒業生に寄付をお願いしました。私はその時受験生だったので、積極的に参加はしなかったんですけど、海外や国際協力に漠然とした関心があった中で、カンボジアという国をそこで初めて知りました。

卒業した後、大学生の時にその学校が実際に建って、現地に行きました。途上国と呼ばれるところに行くのは初めてでした。五感で感じるものが全て衝撃的で、新鮮でした。カンボジアでは必要とされていないものを送って、支援者が満足していて、なんでだろうと疑問が湧いたりもしました。それがきっかけで、もう少し勉強していきたいと思いました。

それとカンボジアが単純に好きになってしまって、もっと知りたいと思いました。人やもの、自然や食べ物など全てが好きでした。最後に空港から帰るときの夕焼けを見て少し涙ぐむぐらい、心に刺さるものがありました。

TE
山室さんがシャンティで働くことを決めた理由を教えてください

山室さん
私は最初シャンティを立ち上げたのがお坊さんだということを知りませんでした。カンボジアで活動しているNGOを調べる中で、シャンティのカンボジア事務所でインターンをする機会がありました。

そこで、支援をする中にもさまざまなプロセスがあって、団体によって方法が違うということを学びました。当時、いろいろな団体に行きました。その中でシャンティはひとつのものをみんなで作り上げていくことを草の根でやっていて、そのプロセスにも惹かれました

たとえば学校建設一つにしても、丈夫な学校が建てばそのプロセスは関係ないと考える団体もあります。一方、シャンティは建設の工程すべてを担うことはありません。

資材の一部を調達してもらったり、土代をまかなってもらったり、建設業者の安全を担保した土地を確保したりするのは、地域の人の役割です。行政やシャンティの役割もそれぞれまた別にあります。

学校を将来どういうふうにしていきたいのか、この地域の中でどう活用していきたいのか、青写真をみんなで作っていきます。それに向かって何が必要か、何年後にはどんなものが必要かと、みんなで話し合います。

建設中も、繰り返し話し合います。現地の教育省の人にも参加してもらいます。シャンティは永久にそこに関わり続けられるわけではないので、顔と顔が見える関係性をつくって、シャンティがいなくなった後も、問題が起きたら自分たちで話し合って解決する道筋をつけていきます。

だから建った後が違ってくる点が、シャンティのすごいところだなと思っています。

TE
シャンティは触媒の役割を果たしているんですね。

山室さん
はい。私たちはきっかけづくりのお手伝いをしています。私たちは最初から「この学校はシャンティのものではなく、皆さんのものです」ときちんとお伝えをします。そうすることで現地の人に覚悟が生まれ、誇りにつながっていきます。

TE
最初から覚悟を持ってもらうことは大事ですね。

山室さん
そうですね。何でもやってもらえると思うと、困ったときにお願いしますと依存してしまうんですけど、そうはしないところが大きいかなと思っています。

TE
支援と同じですね。相手の力を奪わないというか。

山室さん
そうですね。一つ一つみんなで積み上げて、草の根で活動しています。

現地の人も、シャンティの職員も、支援者さんもみんなで同じ方向を目指す

TE
実際にシャンティに入ってみてどうですか。

山室さん
入職して10年以上が経ちました。最初の東京事務所では海外事業の調整やそのアシストをしていました。その後ラオスに駐在をして、今はまた東京で、今度はご支援者の皆さんと現地を繋ぐ立場にいます。

それぞれのポジションで見えてくるものは違います。入った当初はこんなに細かく多岐にわたる業務があるのかと驚きました。今は、他分野の方々に本当に支えられていて、普通に生きていたら出会わない方々にたくさん出会わせていただいています。

TE
記憶に残っている人はいますか。

山室さん
ご支援者さんで、いつも「ありがとう」という言葉をくださる人がいます。逆にこちらが感謝しているのに、自分にはできないことをシャンティに託せる安心感があるということと、自分の人生をこんなにも豊かにしてくれてありがとうと。心に刺さりました。

その人はシャンティがきっかけで、東南アジアのことを知ったり、国際情勢を深いところまで見るようになったり、さらにそれを自分で発信するようになったりしていかれました。その方からそのお話をお聞きして、シャンティから世界的な社会課題を解決していく一人が生まれたことを教えられました。

それこそシャンティが目指していく形です。現地の人だけで進めるわけではなく、シャンティだけでやるのでもなく、全員で同じ方向に向かっていくことができたときに心からありがたいと感じます。私自身も人生を豊かにさせてもらっていると感じます。

現場と事務所で同じ景色を見るためにコミュニケーションする

TE
現地と東京だと、見え方が変わるというのはどういうことですか。

山室さん
現場を経験すると見えてくるものが違います。現場では、学校の子どもたちや先生だけではなく、現地の教育省や外務省の人など、多岐にわたる人たちと交渉して事業を行います。

現場では直に反応があって、事業を動かしている実感があります。東京では現場をいかに理解して進めていくか、現場が安心して事業が進められるようにどうバックアップをしていくかに尽きます。

日本人同士で仕事をしていると、なんとなくで通じるところも、現地の方とはそうはいかないのです。たとえばラオスに3年間いたんですけど、私は会議にラオス語で参加できるほどはラオス語ができなかったので、ラオス人の職員に英語でやり取りをして、それをさらにラオス語や少数民族の言語に訳してもらうことでコミュニケーションを取っていました。

だからひとつひとつ細かく、こういう意味で、背景にはこういうことがあって、いつまでに何をどのようにしてやっていきたいと伝えていました。ひとつのことを達成するために、逆算してスケジュールを立てて、そのためには何をするとか。逆算することが苦手な方は多かったです。

TE
現地の温度感と東京の事務所の熱量を同じぐらいにするためのコツを教えてください。

山室さん
コミュニケーションに尽きます
全員が同じ景色を見ているわけではないので、なるべくそれに近づけるようにコミュニケーションします。なかなか難しいです。

TE
トラブルになることもありますか。

山室さん
トラブルにならないうちに調整すること
にけっこう時間を割いています。

支援者さんとのやり取りをいい形で活動に落とし込むために、現場と調整するんですけど、現場には支援者さんの顔が直接は見えないので、温度感が伝わりづらいです。現場にも現場の温度感があります。それをいかに調整していくかです。

コロナ禍で生じる問題もありました。日本の支援者さんは支援したい気持ちがある一方で、現場は安全第一で運営していく必要があります。職員の身の安全も含めてです。

たとえばコミュニティ図書館に通う子どもたちの安全を確保する一方で、学びの機会が減ったり精神的な危機にある子どもたちをいかにサポートしていくかという問題があります。そのためには細々とした調整業務を行う必要があるのですが、コロナ禍であると同時に政情が変わった中でどう進めていくのかという方向性を決めるのが大変でした。

政治的な思想を越えてサポートする

TE
コロナ禍や政情の変化で職員の皆さんは疲弊していませんか。

山室さん
現地の職員も含め、社会情勢への不安から心が折れそうな時期がありました。「ノーホープ」という言葉が使われたぐらいです。それでもなんとか一緒に頑張って、「私たちがいるから」とただただそれを伝えていました。

余計なことを加えると検閲に引っかかる可能性があるので、ただただ「私たちはそばにいます」「一緒にやっていきます」ということを伝えることに徹していました。

ミャンマーでは社会情勢への不安が長期化してしまっているので、その中で事業を途絶えさせてはいけないという考えで取り組んでいます。情勢にあまり変化はありませんが、現地の人たちの思いも少しずつ変わっていきます。

不服従運動について、今の軍事政権に関わることはしないという、強い気持ちを持っている人もいますが、それが長期化していく中で、とはいえ自分の仕事はたとえば子どもたちを教えることだから、学校現場に復帰するという先生もいます。

アフガニスタンでは、事実上タリバン政権がありましたので、自分たちの安全を守るために、一旦タリバン側につくという地域の人もいらっしゃいます。

その中でも、シャンティがこれまで関わった人たちは「シャンティはタリバン側についたわけではないから、何かあったら言ってほしい」とさまざまな見方があることが、一つ変化があったところとありがたいところだ思っています。

TE
政治的な思想にかかわらずサポートしてもらえるという信頼関係ができているんですね。

山室さん
そうですね。ありがたいです。これまで同じ姿勢で一緒に活動してきたことが何らかの形で影響していると嬉しいです。現地の職員が強く交渉してくれることもあります。

様々な言語へ翻訳される絵本

「共に生き、共に学ぶ」 シャンティを通して未来を拓いてほしい

TE
活動のPRをお願いします。

山室さん
2021年でシャンティは設立してから40年を迎えるんですけれども、「共に生き、共に学ぶ」という姿勢のもとやってきました。その40年の中で、当時子どもだった人が当たり前のように大人になっています。シャンティとの出会いがきっかけで自分の人生をどんどん開花させていくもいて、先輩たちが撒いてきた種が開花していることがとてもうれしいです。そういう人たちが次世代に、そのまた次世代にと繋げてくださっています。

本の読み聞かせをしているときも、本当にいろいろな表情を子どもたちが見せてくれます。ストーリーに合わせて、ハラハラした顔したり、わーっと驚いて目を見開いてみたり、時にはつまらない顔をしてみたり、正直だなと思って見ています。

日本語の絵本に現地語のシールを貼って届けるという活動もしていて、とても人気です。鉄板は『おおきなかぶ』です。必ず盛り上がります。子どもたちの反応がいいので、読み聞かせに慣れていない先生たちも、自信を持ちます。先生たちにとっては次への一歩にもなりますし、子どもたちにとっても「自分もやってみたい」という一歩になります。

教育現場では、子どもたちが一方的に教え込まれる授業スタイルが多いのですが、絵本の読み聞かせやシャンティの研修を通して、子どもたちも自分の意見を言えたり、「僕もやってみたい」「みんなの前でやってみたい」と言い出したり、大きな成長を感じます

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプにある図書館での読み聞かせの様子。写真:川畑嘉文。写真の絵本 『おおきなかぶ』再話:A・トルストイ、訳:内田莉莎子、画:佐藤忠良、出版社:福音館書店

役割も仕事も与えられて生きている

TE
テラエナジーらしい質問として、山室さんの死生観を聞かせてください。

山室さん
年齢を重ねていくごとに、これまで習った哲学的なことや道徳的なことがリアルに感じられるようになってきました。人それぞれ何かしらの役割を持って生きていて、今この仕事が与えられていると思っています。

私は自分からつかみ取って生きてきた人生ではなく、けっこう与えられたものが多い気がしています。ご縁があったり、タイミングが合ったりする中で、その時々にいろいろな役割をもらっていて、そのおかげで生まれる責任や覚悟から逃げないようにしなきゃと思っています。流れに乗っていきたいです。

TE
死んだらどうなると思いますか。

山室さん
死んだ後も流れに沿ってフラフラと今まで通りいくのだろうと思っています。生まれ変わって虫になるのか、どう解脱するのか、分からないですが、何かのお導きがあったり、その時々で降ってくるものがあったりするんじゃないかと思っています。

TE
身近な方が亡くなった後どうなっているかイメージはありますか。

山室さん
亡くなった方が漂ってどこかにいるんだろうなと感じています。
『千の風になって』という歌で、「あの大きな空を吹きわたっています」という歌詞がありますが、そういうイメージです。

TE
最後に一番好きな絵本や本を教えてください。

山室さん
『おおきなかぶ』は、私の中でも大きな一冊です。どこの国に行っても、子どもたちの反応がとても良いです。絵本1冊で頑張ろうという力になることをまざまざと見せてもらっています。

絵本以外だと、聖書かもしれないです。私はクリスチャンではないのですが、小学校の頃からずっとキリスト教の学校で学んでいて、一つの書物として毎日聖書を読んでいました。シャンティに入って、仏教のことを勉強するようになり、共通していることがあると思っています。

TE
本日は誠にありがとうございました。「公益社団法人シャンティ国際ボランティア会」の活動を一緒に応援することで、子どもたちの未来を応援してみませんか?

インタビュー:2021年12月

団体情報

設立
1981年
活動領域
教育文化支援、緊急人道支援
活動中心地域
タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、アフガニスタン、ミャンマー、ネパール、日本

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