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コラム

【研修会レポート】研修会『宗教の社会貢献を考える』が京都・壬生寺にて開催。研究者、住職、行政の視点から「現代の寺社仏閣の在り方」や、「平常時と緊急時の防災のためにできること」を模索する場に。

近年自然災害が多発する中で、避難所の不足が指摘されています。そのような状況の中で、住民の避難所としてより積極的に活用されるようになった一つが寺社仏閣です。緊急時に備え、地域の拠り所として寺社仏閣が積極的に防災活動に関わることで、住民の安心・安全がより一層高まることが期待されています。


 今回は、京都市が環境省の「脱炭素先行地域」に選定され「文化遺産の脱炭素転換」を推進し、防災×脱炭素を推進していることを踏まえ、研究者、住職、行政の視点から講演・議論が行う研修会を実施いたしました。
 まず基調講演として、災害対策における宗教施設の役割や社会貢献について大阪大学の稲場教授からお話があり、さらに地域防災の拠点となっている壬生寺の松浦貫主、そして京都市環境政策局の白﨑課長、妙福寺の松本住職にも登壇いただきました。そしてパネルディスカッションを通して、災害対策や気候変動対策における宗教の社会貢献についてさらに議論を深めました。

現代社会における宗教の社会貢献(稲場圭信教授)

 稲場教授はテラエナジーと連携しながら寺社仏閣の脱炭素事業に助言してくださっています。稲場教授は、日本社会における地域資源としてのお寺神社教会等宗教施設の社会貢献や、災害時にも平常時にも地域の人々人の命を守る宗教者のありかたを30年にわたり考え、研究されてきました。行政や社会福祉協議会が宗教者・宗教施設に対して求める期待が大きいことも踏まえ、宗教者が社会の要請にどのように応えていくべきかをお話いただきました。


 その中で、先の能登半島地震を例に、石川県での事例が挙げられました。石川県内ではもとより120ヶ所のお寺神社教会等が、災害時に地域の方が一時的に命を守るという緊急避難場所になっていました。今回の地震に際しても、宗教者がこれまでの経験をもとに現地に入り物資を届けて炊き出しを行ったこと、そして35ヶ所のお寺神社、教会が社会福祉協議会や行政との連携のもと避難所や物資の集積拠点として機能していたことを述べられました。


 この例を踏まえ、宗教者各々が行うべき社会貢献の具体的な例として、水や物資さらには電力といったものを平常時から備えることが求められると指摘されました。
 今回の京都市の脱脱炭素先行地域作りについては、宗教施設が連携先に入っていることが先進的であること、全国に広がっていくことを期待されるお言葉を述べられました。

 次に稲場教授も策定に関わられた「防災と宗教」クレド(行動指針)のお話がありました。「1. 災害について学ぶ」「2. 災害に備える」「3. 災害時に支える」「4. 災害復興に歩む」「5. 連携の輪を広げる」という5つの方針を掲げたクレドです。災害にまつわる教訓は地域ごとに伝承として残されているケースも多いと指摘した上で、普段から歴史に学び災害に備えること、そして災害時には民間機関・行政と共に連携の輪を広げることの重要性を述べられました。


 最後に、既に2000を超えるお寺神社教会と329の基礎自治体との連携が行われていること、宗教法人が持つ公益性を踏まえ、防災倉庫や太陽光パネル、蓄電池、津波避難タワーなどを境内に設置することができる可能性について触れ、「平常時から住民、宗教者、町内会、自治体、社会福祉協議会、NPO、子供食堂が良好な関係を持ち、そこに信頼関係をもとにソーシャルキャピタルが醸成され、その関係性が災害時に連携の力を発揮するのではないか」と締めくくられました。

脱炭素先行地域の事業(京都市・白﨑晃太朗氏)

 つづいて地球温暖化対策室の脱炭素地域創出促進第一課長の白﨑氏の講演がありました。前段として京都市の地球温暖化対策の歩みについて触れられ、1997年のCOP3・京都議定書誕生、市地球温暖化対策計画策定、2004年の全国初となる市地球温暖化対策条例制定から、2022年に脱炭素先行地域に京都市が選ばれたあらましを振り返られました。


 脱炭素先行地域は、2050年にカーボンニュートラルを実現するのに先駆けて2030年度までにカーボンニュートラルを目指す地域を指します。京都市の取り組みの一つとして文化遺産の脱炭素転換が掲げられており、壬生寺、妙福寺を例に、太陽光パネルと蓄電池を設置し、脱炭素転換を行なった実例をお話いただきました。
 寺社仏閣と連携することを通して「地域コミュニティの活性化」「地域防災対応力の向上」「環境先進エリアとしての魅力の創出」「脱炭素先行地域から市内全域、他地域への波及」を目指しており、中でも「地域防災対応力の向上」において、宗教法人と行政の枠組みを超えて連携する取り組みへ一定の評価の声があがっていることも述べられています。

脱炭素先行地域の設置事例(妙福寺・松本現薫住職)

 京都市脱炭素先行地域の「文化遺産の脱炭素転換」取り組みの事例として、本門佛立宗妙福寺住職の松本住職にも登壇いただきました。
もとより感じておられた課題感として、東日本大震災時の体験をお話くださり、当時、支援活動に20日間ほど従事する中で、お寺と地域との距離感が遠いということを非常に強く感じたと指摘されます。慈悲心の実践として地域に貢献するお寺にしていきたいと、より積極的に地域貢献に取り組むことを決められました。
9年前にはお寺が自治体の緊急避難所として指定を受けます。さらに、同じ時期に災害時の電源確保のために太陽光パネルの設置を検討しました。しかし、その当時は費用や景観の課題をクリアできずに断念しました。


 今回は、設備投資に補助金が出ることを聞き、再度設置に向けて動き出しました。実際の導入にあたっては、大荷重設置による施設の劣化、費用、景観の変化などについて、住職ご自身だけでなくご信者の皆さんの不安があったことも振り返られます。そのうえで、テラエナジーと京都市からの公的な説明会があったことによって、関係者から賛同を得られた経緯を述べられました。そして「小さな寺の取り組みではありますが、非常に大きな一歩になると思っています」と結ばれました。

パネルディスカッション「宗教の社会貢献」

 研修会の最後に、会場でもある律宗大本山壬生寺の松浦貫主、稲場教授、白﨑氏に、コーディネーターとしてテラエナジーの霍野が加わり、ディスカッションが行われました。稲場教授の講演を踏まえて、白﨑氏は京都の宗教施設・文化遺産が、暮らしの質に貢献していることに強く共感したと述べられました。

 また、松浦貫主は東日本大震災時に体験されたことを語られました。壬生寺からお地蔵様と祠を寄進し、それ以来3月11日に現地でお勤めをつづけておられます。松浦貫主は、寄進したお地蔵様の祠があるところが心身の避難の場所になってることに気がつき、宗教が災害時に貢献できることを肌で実感されたとお話されました。


 次に研修会を通して何度も登場したキーワードとして「平常時」が議論になりました。宗教施設の平常時の社会貢献と災害時対応の関係について、稲場教授からは「平常時にできていないことは非常時にできない」と指摘がありました。その上で、稲場教授は宗教施設が敷居が高くみられる点について触れ、日頃から地域の人々が足を踏み入れやすい環境づくりが大切で「ネットワークがいざというときに地域の人の命を守るということになる」と語られました。これを受けて松浦貫主は壬生寺の防災訓練の取り組みについて言及。消防局、京都府警、一般の方などが協力して行う訓練で「平時からできてないといざとなったときにはできないからこそ、訓練にも皆さん方にご参加をいただいています」と平常時の心構えの重要さに賛同されました。

 さらに宗教と行政の連携について議論になり、その垣根を超えるポイントとして稲場教授は社会認知の大切さを挙げられました。今回のような研修会を発信し、宗教と行政が連携している実例があることを示し、社会認知を拡げていくことによって連携のハードルを下げていくことが期待されました。松浦貫主は最後に歴史的に見て寺院が時代の流行が集積する場所であったことを振り返り、「お寺こそ先進的な取り組みを積極的にやるべきだと思います」とくくられました。行政の立場として白﨑氏からは「行政と宗教の連携はタブーではありません。社会的な貢献の望まれる限り、共通の目標として一緒に取り組みをできる関係にあると思います」とお言葉があり、宗教の社会貢献の可能性を強く感じられるディスカッションとなりました。

 最後に、テラエナジー代表の竹本了悟が閉会の挨拶を行いました。

 登壇された方々の言葉から慈悲や温かみを感じ、寺には「安心を提供する」という存在意義があるのではないかと述べ、困った時に頼れる場所として宗教施設が機能することで、あたたかな地域を生み出していけるのではないかと締めくくりました。

【京都市脱炭素先行地域】お寺とお宮の発電プロジェクト詳細はこちらから

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