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気候ネットワークの豊田さんに聞く②「電力市場価格の高騰の原因と、再生可能エネルギーへの影響」

テレビなどメディアでも報道されている2021年12月末〜1月下旬にかけての異常な電力市場価格の高騰について、前回に引き続き、特定非営利活動法人気候ネットワーク、気候ネットワーク上席研究員の豊田陽介さんにお話を伺いました。

今回は、その後明らかになった電力市場の価格の高騰の原因と影響、再生可能エネルギーとの関連についてお話を聞かせていただきました。

気候ネットワークの豊田さんに聞く「電力市場高騰の要因と、環境に優しいエネルギー政策のこれから」

エネルギー供給構造

―電力市場の価格はようやく落ち着きを取り戻しましたが、あらためて12月末から1月末までの高騰の要因を教えてください。

電力価格高騰の理由を考えるにあたっては、<電力の需給逼迫><市場価格の高騰>を、分けて考える必要があります。
まず電力の需給逼迫の原因は、前回もお話したように、厳冬による電力需要の増加がその一因です。


今冬は強烈な寒気に見舞われ記録的な大雪や寒さとなりました。気温の低下にともない、電力需要は昨年の同時期と比べて8%程度増加しました。全国的には電力の供給量は足りていたものの、エリアによっては厳しくなった地域もありました。そのため、電力広域的運営推進機関が電力会社間の融通指示を出すなどの対策を講じて、安定供給に必要な予備率を確保していました。
しかし、寒波が襲来することや、それにともなって一定の電力需要が増加することは十分に予測できていたはずです。

―確かに、年末から年明けは例年に比べとても寒かったです。ご近所では寒さで水道管が破裂しましたし、寒波で電力が不足しているというニュースも聞きました。それが事前に予測できていたんですか?

そうです。気象観測によってラニーニャ現象が起こり、寒波によって冷え込みが強くなることは予測できていました。予測ができていれば、事前に備えができます。

「エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う 太平洋熱帯域の大気と海洋の変動」(気象庁ホームページより)

―前回のお話では、電気を使用する家庭や企業など需要側の要因だけで価格高騰を説明するのは無理があると言われていましたが、寒波で電力の使用量が増えたとしてもでしょうか?

寒波は受給逼迫の一因ではありますが、全てではありません。
もうひとつの要因として、太陽光発電の発電量の低下があげられていますが、これは明らかにミスリーディング、間違いです。

―太陽光発電の出力低下は今回の電力需給逼迫の原因ではないのですか?

そのとおりです。まず、太陽光発電の発電量は、昨年同時期より12.7%も増えています。
そもそも太陽光発電が電力需要をカバーする時間帯は日中です。これに対して、冬期の電気需要のピーク時間帯は早朝と夕方以降ですから、もともと太陽光発電には頼っていないのが現実です(参考:2021年01月16日の取引情報_JPEXより)。
むしろ、昼間に太陽光発電が稼働することによって、昼間の電力ピーク、ひいては需給の逼迫を抑える役割を果たしていました。

―太陽光発電はむしろ電力不足を抑えていたのですね。それでは、需給逼迫の主な原因はなんですか?

「福島から自然エネルギーの輪をつくる~自然エネルギー学校・福島 最終回~」(気候ネットワークホームページより)

電力の需給逼迫の主な原因は、LNGの在庫不足による「燃料制約」です。

LNG「Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)」はマイナス162度まで冷却して液化した天然ガスで、火力発電の燃料として利用されています。同じ化石燃料である石炭や石油よりCO2の排出量が少なく、これまでは安定的に輸入できていたことから、LNG火力発電は現在日本の発電量の約4割を占めるまでになりました。

―火力発電は石炭や石油がメインの燃料だと思っていましたが、LNGがいちばん多いんですね。そのLNGがなぜ不足していたんですか?

世界各地のLNG基地でさまざまなトラブルが重なったうえ、LNGを運輸する経路であるパナマ運河で渋滞が起き、安定的な調達ができない状況に陥ったことから、LNGの国際的価格が高騰しました。

―運河も渋滞するんですね……。

そうですね。
そのうえ、世界各地のLNG基地でトラブルが重なりました。
たとえば、世界最大のLNG供給国であるカタールでは、11月頃から計画的なメンテナンスに入っていたことに加え、突発的な機械トラブルが起こり、輸出量が減少しました。

また、ナイジェリアでは、ガスパイプラインが爆破されたり、従業員のストライキが起こりました。
さらにパナマ運河の渋滞によってLNG輸送船が足止めされ、世界で輸送船が不足したことから、日本が冬期のLNG輸入を依存している大西洋・太平洋経由のLNG輸入コストが高騰してしまいました。

一方、輸入国である韓国や中国でLNGの消費量が増加しているため、アジア市場のLNG価格が高騰していることも影響しています。(参考:気候ネットワークの豊田さんに聞く「電力市場高騰の要因と、環境に優しいエネルギー政策のこれから」)

つまり、こうした海外からの化石燃料に依存した日本のエネルギー供給構造そのものが、今回の需給逼迫と価格高騰を引き起こしたと言えます。

こうした複合的な要因が重なり、LNGの安定的な調達ができなくなったため、LNG火力をもつ大手電力会社などがすでに確保しているLNGの在庫量を減らさないようにするため、「燃料制約」、つまり燃料を節約するために出力を低下させざるをえなくなりました。

実際に12月1日から2月1日にかけて、1日平均7200万kWもの火力発電所の停止や出力低下が確認されています。特に電力の需給が逼迫した12月末から1月はじめにかけては、LNG火力の出力が大きく低下しました。

つまり、もともと電力が足りない時期に、発電量の4割を占めるLNG火力の発電量が低下する事態が発生したのです。これが電力需給逼迫の主な原因と考えられます。

電力価格は史上最高値を記録

そして、この燃料制約にともなって、大手電力会社が日本卸電力取引所(JEPX)に卸していた電力量は11億kWhから8億kWhへと大きく減少しました。市場で取引される電力量が3割近くも少なくなったのです。その結果、電気の買い争いが起こり、電力価格が高騰しました。

JEPXのスポット市場での電力取引価格は12月末から上昇し始め、1月15日には過去最高値の251円を記録し、2020年度の高騰以前には5.63円だったシステム価格の平均も61円以上になりました。

(出典:資源エネルギー庁、2021年2月3日、再生可能エネルギータスクフォーズ会議資料、「電力需給状況・市場価格高騰について」)

―251円という高値には本当に驚きました。今はおさまって安心しています。価格高騰には、LNGの不足などさまざまな要因がからんでいるんですね。ところで、卸電力市場の価格はどうやって決まるんでしょうか?

電力小売事業者が「電気を調達する」ためには、(1)自分で発電設備を持つ、(2)発電設備を持つ事業者と直接契約して電気を調達する、(3)JEPXから電気を調達するという3つの方法があります。

しかし、現実には、日本の発電設備の8割は大手電力会社が所有しているため、JEPXに供給される電力は大手電力会社からのものがほとんどを占めています。
しかも、JEPXの外で取引される再生可能エネルギー由来の電力量もまだ十分にはありません。そのため、多くの新電力会社はJEPXから電気を調達して、小売りを行っているのです。

このうち(3)JEPXでは、常に電力の売り手と買い手によって電力が売買されています。売買される電力の価格は、発電事業者が市場に卸す電気の量・価格と、小売事業者が購入する電力の量・価格によって決まります。

下の図を見ていただくと、12月下旬以降には、発電事業者がJEPXに卸す「売り入札量」がとても減少していることがわかります。
これに対して、小売事業者が買う「買い入札量」には変化がありません。

―需要と供給が一致していないということでしょうか?市場から電力がなくなれば、小売事業者は電気が買えなくなるのではありませんか?

それを避けるために、小売事業者はどんなに高くなっても電力を確保しようとしました。

さらに、小売事業者がJEPXで電力を調達できずに、供給責任が果たせなくなった場合には、ペナルティとして、割高な「インバランス料金」が課せられます。
このインバランス料金の上限は、JEPXのスポット市場の価格以上と決まっています。そのため、何としてでもJEPXのスポット市場で電力を確保しようとします。
それが、今回の価格の高騰につながりました。

―電力市場の仕組みは複雑ですね。

こうした事態を受けて、経済産業省が対策に乗り出しました。
まず、スポット市場価格が最も高騰した1月15日以降には、インバランス料金単価の上限を1kWhあたり200円にする措置を発表し、1月17日の供給分から適用しました。これによって価格は低下していきましたが、インバランス料金の上限が200円近くで張りつき、システム価格も高値で推移したままでした。

そこで、1月19日から、電力取引に関連する情報の公開を始めました。特に
1月22日にスポット市場の需給曲線が公開された直後から市場価格は大きく下落し、高騰以前の落ち着きを取り戻しました。

―公開された電力取引に関連する情報とはどんなものですか?

電力の需給状況やLNG在庫量、LNG火力出力状況、売り・買い入札状況などです。公開されたスポット市場の需給曲線を見ると、1月14日の17時から17時半にかけては売り入札の99%は15円未満で売られていたにもかかわらず、取引価格は15倍をこえる232.2円になっています……。

これまではこうした情報が公開されていなかったため、買う側が調達できない不安にかられて、売り入札価格と大きく乖離した高値で入札した結果、今回のような高騰につながったことがわかります。
情報が公開されることにより、JEPXは落ち着きを取り戻しました。

求められる市場改革

―今回の価格高騰でどんな影響が出ていますか?

電力価格の高騰は、多くの新電力会社の経営を圧迫しているばかりでなく、消費者、なかでも「市場連動型メニュー」の消費者が高額な電気料金の支払いに苦しむ結果をもたらしました。

まず、新電力会社の経営から見ていきましょう。新電力のなかでも、固定価格で販売を行っている会社の多くは、高値で仕入れた電力を売れば売るほど赤字になってしまう状況が3週間も続いたため、経営危機に陥った会社が少なくありません。
一方、市場連動型メニューを採用している新電力は高騰分を電気料金に転嫁できるため経営が圧迫されることはありませんが、高額な電気料金の請求を受け取った顧客離れは深刻です。どちらにしても、新電力には大なり小なり損失が出ている状況です。

新電力が変動する市場から電力を調達している以上、変動に対するリスクヘッジをしておくべきだったという批判もありますが、今回の価格の高騰はそもそも「市場の未成熟」が生み出した異常な事態と考えられています。

一方、大手電力会社への影響は、限定的といえます。
燃料の仕入れ価格は上がっていますが、発電した電力を高値で売ったり、燃料調整費として電気料金から回収することができるので、損失は相殺できます。
また、FIT電気の仕入れ価格は市場価格と連動しており、その差額による利益は大手電力の小会社である送配電事業者に支払われるため、想定外の利益をもたらしたと推測されています。

―どうしてですか?

そもそもFIT電気というのは、「太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー電源を用いて発電され、固定価格買取制度(FIT)によって電気事業者に買い取られた電気」のことを言います。

こうした再生可能エネルギーの普及をめざす新電力では、JEPXからではなく、大手電力の小会社である一般送配電事業者が行う「FIT特定卸供給」を通してFIT電気を調達しています。このFIT電気の価格はJEPXの価格と連動しているため、今回のように市場の価格が高騰すると、FIT調達価格よりも高くなってしまうことがあります。

1kWhあたり40円で売電している太陽光発電を例に説明しましょう。
この場合、一般送配電事業者は発電事業者から40円で買い取ります。このとき、市場価格が6円なら、小売事業者は6円でFIT電気を調達することができます。送配電事業者が負担する差額の34円は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」で補填されます。

しかし、市場価格が200円に高騰した場合、40円で仕入れた電気を5倍の200円で販売できるので、差額の160円が一般送配電事業者の利益になります。そのため、一般送配電事業者は今回の価格高騰によって想定外の利益を得たものを推定されています。

―再生可能エネルギーの電気を使いたいという消費者に応えようとしている新電力会社は、FIT電気の価格高騰の影響をまともに受けるのではありませんか?

その通りです。再生可能エネルギーの普及をめざす新電力は、市場で電力の調達をしていないにもかかわらず、FIT電気の調達価格は市場に連動すると決められているために、高額な調達費用を支払わなければならなくなりました。いわばもらい事故のようなものです。

さらに、消費者が安心して再生可能エネルギーの電力会社を選びにくい状況になってきています。

―なぜですか?

再生可能エネルギーを選ぶことによって社会を変えようとする「パワーシフト」 を進めようと考えている消費者にとっては、再生可能エネルギーを固定プランで販売する新電力会社と契約することが、会社の経営を圧迫することにならないかという不安が消えません。

一方、再生可能エネルギーを市場連動型プランで販売する新電力会社を選ぶ場合には、市場価格の高騰が電気料金の値上がりにつながりにつながるのではないかという不安がぬぐえず、安心してパワーシフトができなくなるからです。


―電力の市場価格高騰は、再生可能エネルギーの普及を妨げてしまうんですね。
同じようなことがまた起こるのではないかと不安になります。

同じ問題が二度と起こらないようにするためにも、さらなる原因究明が必要です。特に大手電力による出力低下や市場での取引量の減少については、原因究明と再発防止のための市場改革が不可欠です。
今回の高騰を受けて、インバランス料金の上限設定や情報公開、電力・ガス取引監視等委員会による監視が実施されましたが、対策は後手後手でした。

京都大学特任教授の安田陽さんは、価格高騰の主要な原因は「売り入札量の減少」と「極めて異常な状態」であり、その原因は「市場の未熟性」であると分析しています。(参考:日経エネルギーNEXT「マーケット考察 電力市場の価格高騰要因を公開データから読み解く京都大学・安田陽特任教授による電力危機分析(前編)」
そういった意味でも、早急な電力市場の改革が必要だと思います。市場の監視は株式の取引などでも行われており、異常事態に陥った際には、株式市場と同様に取引停止などの措置を講じるべきでしょう。

さらに、新電力側も今後こういったことが起こった際の対応を検討しておく必要があります。先物取引や発電事業者との相対契約による調達など、市場価格に左右されない電源の確保や、需要家への省エネ対策などが今後の対策になると思います。

また、再生可能エネルギーの普及を願う消費者の立場からは、公正な市場改革を求めて声を上げていくことが必要だと思います。

―ありがとうございました。LNGの不足や寒波が原因と思われた電力市場の高騰ですが、実際には電力市場の未成熟さなどの要因が浮き彫りになってきたんですね。
消費者としてできることも、パワーシフト・キャンペーン運営委員会がまとめてくださっているので、こちらもぜひご覧ください。

▷パワーシフト・キャンペーン運営委員会「電力市場価格高騰で、再エネ系新電力が危機的状況!消費者としては何ができるの?」


豊田 陽介(とよた ようすけ)
認定NPO法人気候ネットワーク上級研究員。再生可能エネルギー普及政策を専門とし、地域における再エネ普及のための支援に取り組む。龍谷大学、京都ノートルダム女子大学で非常勤講師。著書に『エネルギー・ガバナンス』(学芸出版、2018)『市民・地域共同発電所のつくり方』(かもがわ出版、2014)他。2月末に新著の『エネルギー自給と持続可能な地域づくり』(昭和堂)を出版予定。


<参考>
▷日経エネルギーNEXT「マーケット考察 公開データが語る、電力ひっ迫と市場高騰が発生した理由 京都大学・安田陽特任教授による電力危機分析(後編)」

[コラム] | 2021.02.12

https://tera-energy.com/post/1973/