テラエナジーでは、太陽光パネルと蓄電池を寺社仏閣に設置することで、宗教者を通じて市民の脱炭素への関心を高めることや、自然災害などのまちの防災拠点として存在価値を高めることにもつながると考え、寺社仏閣に協力を呼びかけています。
今回は、設置第1号となった本門佛立宗 妙福寺の松本現薫 (げんくん) 住職にお話を伺いました。もともとエコエネルギーに興味を持っていたという松本住職。どのような想いから設置を決意されたのでしょうか。
3.11をきっかけに大きく変わった意識
戦国時代に建てられた伏見城を中心に形成されたまち、京都・伏見。質のよい地下水を使って、酒造づくりが盛んに行なわれています。1892年に伏見に設立された妙福寺は、これまで信者の方や地域の方のよりどころとなってきました。地域に開かれたお寺を目指し、毎朝6時半からの朝のお参りや季節ごとの法要だけでなく、毎月のキックボクシング、年2回ほどの朝市などさまざまな催しを行っています。
「信者さん以外の方から見れば、観光寺院以外のお寺は入りづらいし、法話を聞く機会もほとんどないと思います。でも実は、よりよく生きるための考え方や、心のあり方を捉え直すヒントがたくさん詰まっているんです。そういったことを知っていただくためにも、まちの方が気軽に参加できるイベントを始めようと思ったんです」
地域に認知されるお寺にならなければ。その意識をさらに強めたのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。松本さんは、震災後に被災地に建つ本門佛立宗のお寺で支援を行いました。
「支援に行かせて頂いた2カ寺は、幸いなことに建物は無事でした。しかしお寺に避難してくるのは、特定の信者の方だけ。昔からお寺は、昔から困ったときに集まれる、地域の寄り合い所のような役割を持つ場所でした。現代のお寺はその役割をまったく果たせていないんだ…と、打ちひしがれました。コンビニよりお寺の方が数は多いのに、緊急時に活かされない、頼りにされないのは悲しいことですよね」
妙福寺のソーシャルグッドな取り組み
震災下でのお寺の現状を目の当たりにし、お寺を地域に開いていく必要性を感じた松本さん。これまで以上に地域の人との接点をつくる機会を増やしていきました。師範代の資格を持つ信者さんが先生となり、子どもから大人まで参加できる書道教室や、キックボクシング、近隣の小学校では「お坊さん体験教室」を開催しました。
「認知症介護講座や、中学生のテスト勉強のためにお寺の一室を開放して自習室にするなど、地域の皆さんの困りごと、やってほしいことを実現していくことで、地域との接点を増やしていきました。キックボクシングは近所の商店街でジムを経営する方が、地域の人の心と体を健康したいと声をかけてくれてスタートしたんですよ」
定期的に開催している「100万人のクラシックライブ」は、クラシックに馴染みのない人も生の演奏の素晴らしさを感じて欲しいと音楽家の方々によってスタートした活動です。商店街、駅ナカ、高齢者施設、学習塾と全国さまざまな場所で演奏しており、2018年から妙福寺でも開催しています。
「お寺もクラシックライブも敷居が高いと思われがちですが、もっと身近に感じてもらう機会をつくれたらと思い、協力させていただくことにしました。コンサート会場よりも間近でプロの演奏を聴く時間はとても貴重なことですし、その場にいる人たちと共に音楽を楽しむことで、心の絆を再生したいという活動理念に共感したんです」
このように松本さんの抱いた危機感から地域と接点が増え、妙福寺と地域の人とのご縁はどんどん紡がれています。
繰り返し説明することで理解を得る
地域との接点をつくる。それと同時に松本さんが進めていたのは、脱原発への取り組みです。
「東日本大震災以降、原発の問題を重く受け止めていたので、国内のエコエネルギー開発や、海外のエネルギーの地産地消の取り組みなどに注目していました。自分でも何度も太陽光発電について調べたり、実際に設置できるか見積もりを取っていたんですよ」
そんな頃にテラエナジーを設立した竹本、霍野と出会い、取り組みを知ることとなります。初めて事業のことを聞いたとき、「実は怪しい事業なんじゃないか…」と不安に感じていたそう。
「以前から太陽光発電の設置を検討していたんですが、日当たりや蓄電池の設置場所などの理由から業者に設置は無理だと言われたことがあったんですよ。それなのに竹本さんたちは『絶対できますよ!』と言うから(笑)。しかも、京都市からの援助で設置費用の3分の2は賄えるし、設置後は通常の電気料金よりは安くなると。こんなうまい話はないはずや!と思って警戒していました」
しかし、京都市の同席のもと開かれた説明会などで、繰り返し話を聞くうちにテラエナジーへの信用が増し、太陽光パネルと蓄電設備の導入を決意しました。しかし、お寺は住職やその家族だけで成り立つわけではありません。一般企業と同様にお寺をともに運営する幹部の方々、そして何よりも信者さんの同意が必要不可欠です。
テラエナジーの再生可能エネルギーとは
https://tera-energy.com/renewable-energy/
「せっかく良い仕組みを導入したとしても、幹部や信者さんの理解が得られなければ意味がありません。信者さんは年配の方も多いため、なぜ既存の電気から変える必要があるのか、地球温暖化がどのように私たちの生活に関わるのかなどできるだけわかりやすく説明をしていただきました。それでも半信半疑のところもあったと思いますが、後は住職に任せてみようと信頼してくださったんだと思います」
松本さんは導入までの間、ソーラーパネルの設置の様子や契約締結の際に写真や動画撮影し、法要のたびに進捗状況をこまめに伝えるように心がけたと言います。こうした経緯を経て、本堂の隣に建つ講堂の屋上に太陽光パネル、蓄電設備の設置が完了しました。
お寺がまちのよりどころに
4月1日より電力供給がスタートしました。今後、どのようなことに期待しているでしょうか。
「震災以来、既存の電力を使い続けていることに違和感はあったんですがどうしていいか分からず、ずっと課題に感じていました。ですからエコエネルギーに切り替え、エネルギーの地産地消にお寺として関われることはすごく意義があると感じています。何より災害時に機械が故障してない限り発電できる、携帯電話ひとつでも充電できる環境があるということは地域の方の安心にも繋がります。緊急避難所の指定をいただいているのでそういう備えができたのは嬉しい限りです」
こうした妙福寺の取り組みを聞いて、繋がりのある僧侶から話をききたいと声をかけられることもあるそうです。
「本門佛立宗では災害対策に力を入れており、災害地への支援活動や防災の有識者を招いた講演会なども行っています。災害対策に高い意識を持つ方も多く、妙福寺の取り組みに興味を持ってくださる方もいらっしゃいます。ただ今回の取り組みは京都市のものなので、全国で同じような仕組みがあれば、もっと多くのお寺が賛同できるのになと思いました。温暖化や災害対策は日本中で取り組むべきことなので、ぜひお願いしたいですね」
震災以降、お寺のあり方を見つめ直し、地域との絆を築いてきた松本さん。こうした地道な活動が実を結び、地域になくてはならない存在となっています。災害が起きることは怖いことですが、地域に「いざというときのよりどころ」があることはとても心強いですね。
脱炭素先行地域の取組みの一環として京都市とタッグを組みスタートした「京都広域再エネグリッド構築」。太陽光パネルと蓄電池を組み合わせた発電設備を、寺社仏閣や伏見エリアの商店街などに景観上支障がない形で工夫しながら設置し、電力の需給調整等を試みながら地産地消のエネルギー循環の仕組みをつくる取り組みです。
対談記事「京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み」
https://note.com/teraenergy/n/n2d4a99c77bab?sub_rt=share_pw
執筆:三上由香利
撮影:安武慶哉