テラエナジーでは、太陽光パネルと蓄電池を寺社仏閣に設置することで、宗教者を通じて市民の脱炭素への関心を高めることや、自然災害などのまちの防災拠点として存在価値を高めることにもつながると考え、寺社仏閣に協力を呼びかけています。さらにLED照明と省エネエアコンへの切り替えを促進することで、エネルギー消費量を減らして脱炭素地域の実現に取り組んでいます。
今回は、テラエナジーの呼びかけで、省エネエアコンとLEDの導入を実施していただいた熊野若王子神社の伊藤公一宮司にお話を伺いました。
導入いただいた背景にあるのは、神社を明るく快適にしたいとの思いです。神社の成り立ちから導入後の変化までお伺いしました。
後白河法皇が創建した神社
熊野若王子神社の創建は1160年。後白河法皇によって建立されました。紀州熊野権現を勧請して創建された京都三熊野のひとつであり、永観堂の守護神としての神社です。

865年続く歴史ある神社で、伊藤公一宮司は30代目を務めています。
「日本の神道では八百万の神が信仰されています。ですから、神社では宗派を問わず皆を受け入れてきました。熊野若王子神社も様々な方にご利用いただいてます」 (伊藤公一宮司)

神社の境内では、町内会の会議や大学教授の会合、雅楽のコンサートなど様々な催しが行われています。なかでも、境内裏山にある桜花苑では毎年4月の第1日曜日に「桜花祭」が開催され、多くの人が訪れます。
「桜花苑には約60本の陽光桜が植えられており、濃いピンクの花を咲かせます。それは見事ですよ」
町内あっての私たち
様々な人に利用してもらえるようにしているのも、「町内あっての神社」であると考えているから。
「鹿ヶ谷通より山側はもともと熊野若王子神社しかなく、山の中にポツンとある神社だったんですよ。その後、神社の参道周辺に民家を建ててもらえるようにして、うちの神社の名前から付けられた若王子町が生まれました」
そうした背景もあり、町と共にあり続けてきた熊野若王子神社。地域の人に開かれた神社として、訪れる方に快適に過ごしてもらいたいと常に考えています。
しかし、維持や改修には費用がかかるもの。特に、熊野若王子神社は天皇家由来のお家であるため、細部まで決まりがあり、莫大な維持費を必要としています。
「天皇家の流れを組んでいるため、御神紋も同じものを使わせていただいております。大変ありがたいことではありますが、ボルトや瓦を変えるだけでも一苦労。十六弁八重表菊をあしらったものにする必要があるので、通常の何倍もお金がかかるんです」

夜間も提灯や灯籠の電気をつけておく必要があるため、電気代も一般家庭とは比べものになりません。伊藤宮司が神社を継ぐために東京からUターンしてきた18年前、電気代は10万円をゆうに越えていたと言います。
「連れ合いもお嫁に来た当初は電気代の高さにびっくりしていましたよ。でも一晩中、提灯や神社の照明をつけっぱなしにするわけですから、それくらいかかりますよね」
とはいえ、大きな負担になっており、神社の収入だけでは足りない時は、時に伊藤さんが出稼ぎに出ることもあったそうです。
灯りをともし続けるために
そんな時に知ったのが 「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」でした。
「神社本教の研修へ行った際、テラエナジーさんが来ていて補助金の説明をされていたんですね。神社で活用できる補助金や制度は限られているので、どんな内容なのだろう?と興味をもって話を聞きました」
話を聞く中で、古くなったエアコンや街灯のことを思い出した伊藤さん。補助金を活用することに決め、今回は大広間のエアコン5台を省エネエアコンに付け替え、境内の提灯や灯籠をLED照明へ切り替えました。


「LED照明に変えた一番の理由は、火事の心配がなくなることです。提灯から火が上がっているのを何度も見て、怖い思いをしてきました。また、省エネエアコンに切り替えることで、環境への負荷を減らせ、電気代も抑えられるということで、変えない理由はありませんでした」
太陽光パネルや省エネエアコン、LED照明の導入を進め、天気の良い日であれば電気代は約45%削減、雨の日でも20%ほどは抑えられており、確かな手応えを感じています。
補助対象となる設備について
https://tera-energy.com/post/4610/
神社の雰囲気に合わせた工事
省エネエアコンの設置そしてLED照明に切り替える際、懸念した点はどこだったのでしょうか。
「神社ですから風情が大切です。エアコンであれば、建物の雰囲気にあうデザインや色味のものを選ぶことになります。襖が白なので、同系色だったら合うかなということで提案してもらいました。LED照明を灯籠に取り付ける際には、配線が剥き出しにならないように土に埋めてもらったり、メーカー名が見えないものを選んだりして、ひと工夫してもらいました。何をどこに取り付けるのか全て事前に確認しながら進めてもらいましたので、施工業者からしたら口うるさかったと思いますが、きちんと対応いただけました」

伊藤さんが施工業者とやり取りをしながら工事を進める一方、ご夫人は申請書類の準備をテラエナジーと進めていたそうです。
「書類の準備は手間がかかるし、しんどかったみたいですが、テラエナジーさんが一生懸命付き合ってくれるから頑張ろうと思ったって言っていましたね。テラエナジーさんも、施工業者も、みんなが協力して一つのゴールに向かって動いてくれたことがすごくありがたくて、身に沁みました」
様々な人の尽力の末、全ての工事が完了。
大広間を使う地域の人からは「クーラー新しくなったね」、「前は効きが悪かったけど、涼しいわ」と喜びの声が届いています。また、LED照明に切り替えた境内では、暗闇に浮かび上がる提灯が美しいと話題になり、写真や動画をSNSにアップしている人も増えているそう。
地球のためにできることを一歩ずつ
「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」を使ってみて、伊藤さんは三方よしの制度だと感じています。
「この補助金を使うことで、神社は電気代を抑えられ、地球に優しい。京都市の実績にもなる。こんなに良いことばかりの制度って多くはないですよ」

「カニ漁師に話を聞く機会があったんですけどね。温暖化の影響で、漁の解禁日になっても水温が高すぎてカニがいないそうです。漁をまともにできず生活が厳しくなってきているところまできていると。私らは小さいことしかできませんけど、少しでも電気の使用を減らすことで役に立てたら良いなと思っています」
と、身近にできる脱炭素の取り組みであることを評価しつつも、他の神社が導入していくにはハードルが高いとも指摘します。
「宮司の高齢化は進んでいて、70代・80代が中心。ガラケーを使っている人もまだまだ多い、ローテクの人の集まりなんです。だから、太陽光パネルやLED照明の話をしてもピンときていない人が多いのが現実です。テラエナジーさんが神社本教へ説明をしに来られていた際も、素敵な取組みであることはわかっても、自分達には使いこなせないと話している人が大勢いました」
実際、寺社が太陽光パネルを付けたいと考えても、「京の景観ガイドライン」を守った上での設置になり、重要文化財であればそもそも設置自体が不可能です。様々な条件をクリアしながら、寺社の希望にあった形で工事をしていかなければなりません。
「なんでもやりようですからね。『太陽光パネルは表から見えないところに付けられますよ』、『蠟燭だと火事になる可能性があるからLED照明に変えると安心です』、『配線は隠すことができますよ』と、どうすれば神社に設置できるのかイメージできるように具体的に示してあげられると、今よりも導入が進んでいくと思います」

熊野若王子神社は、お賽銭の電子決済を導入するなど、新しいものも積極的に取り入れています。
「神社は歴史や祭祀、神様に関する伝承を伝えていく語り部でもあります。私たちは良いものを地域のみなさんに伝えていく役割でもあるのですから、地球のためにできることがあるのなら試したいですし、広く伝えていきたいですね」
時代の流れに合わせてできることからアップデートを続ける熊野若王子神社。訪れた際はぜひ新たな取組みにも注目してみてください。
対談記事「京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み」 https://tera-energy.com/otera-omoya-kyoto/#actionAtKyoto |
執筆:北川由依
撮影:天﨑仁紹