テラエナジーでは、太陽光パネルと蓄電池を寺社仏閣に設置することで、宗教者を通じて市民の脱炭素への関心を高めることや、自然災害などのまちの防災拠点として存在価値を高めることにもつながると考え、寺社仏閣に協力を呼びかけています。さらにLED照明と省エネエアコンへの切り替えを促進することで、エネルギー消費量を減らして脱炭素地域の実現に取り組んでいます。
今回は、テラエナジーの呼びかけで、太陽光パネルの設置と蓄電池の導入を実施していただいた浄土真宗本願寺派の西養寺・阿満慎介さんにお話を伺いました。
導入いただいた背景にあるのは、生活にかかる電気代を抑えたいという思いと、災害が起こった時に地域のみなさまに電力供給の基地のような存在になりたいと考えたからです。西養寺の歴史と共にお伺いしました。
真宗の一般寺院では市内最古の建築物
伏見の肥後町、竹田街道に面する西養寺。本家は、南北朝時代から続くとされる大阪・茨木市にある慈明寺で、1650年代に京都・伏見へと移ってきました。
江戸時代に建てられた本堂は、京都市指定有形文化財に指定されており、浄土真宗らしい建築様式や装飾が施されています。

1868年に起こった鳥羽・伏見の戦いではまちに戦火が広がり、近隣の多くの寺院や住宅は焼け落ちました。しかし、本堂は辛くも類焼を免れ、現在では真宗の一般寺院では市内最古の建築として遺っています。
現代にあったお寺の姿とは
現在、住職を務めるのは慎介さんのお父さん。慎介さんは次期住職として、近い将来の代替わりを見据えながらお寺の仕事に関わっています。
「僕が跡を継いだ後に何をしていかないといけないかは、まだ模索中です。宗教離れが激しい中、お寺の存在が生きる糧になるような働きをできるといいなと思いますが、すぐに答えが出るものでもないのでニーズに応える形でやっていければいいのかなと」 (阿満慎介さん)

阿満さんは昨年、子どもの小学校のPTAを担当。そこで地域活動を経験したこともあり、お寺でも地域のために何かできることはないかと模索を続けています。
今は表立って地域活動をしていないものの、14代目を務めていた祖父の代には、寺子屋を開いていたそう。学校帰りの子どもたちがお寺に集まり、当時の住職が英語や算数を教えていたと言います。
「昔は地域のコミュニティといえばお寺が中心でした。何かあればお寺に集まることが当たり前で、宗派を超えてどなたでも来れるような形でやっていたみたいです」

FITの買取期間を終えて電気を見直し
西養寺では2011年に京都市の補助金を使って太陽光パネルを導入し、お寺に隣接する住居部分に設置し、電気の販売を行ってきました。当時はFIT (固定価格買取制度)※ の第2期で、単価は42円/kWh。導入の手応えを感じていました。
※ FITとは、再生可能エネルギー発電事業者が発電した電気を、電力会社が一定の期間と価格で買い取る制度のこと。
FITの買取期間である10年が経過し、再び電気代周りを見直していたところ、大学のゼミの先輩であるテラエナジーの代表・竹本の存在を思い出したと、阿満さんは振り返ります。
「太陽光パネルを導入した14年前、蓄電池も同時に検討したのですが、あと10年待てば設備が安くなるかもしれないと思って見送りました。でも、金額があまり変わってなくて (笑) 。悶々としていた時に、たけ (竹本) さんが再エネの仕事をしていることを思い出し、一度話を聞いてみることにしたんです」

電気周りの相談をまるっとした結果、古くなった太陽光パネルの載せ替えや蓄電池の購入に「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」を活用でき、設置費用の3分の2が補助されることがわかりました。
補助対象となる設備について
https://tera-energy.com/post/4610/
「たけさんは元自衛官で、学生時代から厳しい先輩でした。でも、根は優しくいい人で、面倒見が良いことも知っています。京都自死・自殺相談センター Sottoの運営もされていて、私はサポーターなので毎号会報を読んでいますし、その活動費を得るためにテラエナジーを立ち上げたことも知っています。起業当初は再生可能エネルギーのことがよくわからなかったので、『怪しいことしてるな』って思ったこともありました (笑) 。でも、今回丁寧に説明を聞いてそんなに安くなるんだと驚きましたし、たけさんを信じて思い切って切り替えてみることにしました」
不安を全てクリアして工事完了
今回、西養寺では太陽光パネルの載せ替えと蓄電池の導入を行い、一部を再生可能エネルギー100%プランへ電力契約を切り替えました。
太陽光パネルと蓄電池それぞれに心配だった点があるそうで……。
「一番不安だったのは、太陽光パネルを載せ替えることによる雨漏りです。以前は住宅を新築する際に設置したのですが、今回はそのパネルとレールを外して新品に交換する必要がありました。瓦がズレて雨漏りがする場合があると聞いていましたので、その点は心配でしたね。ただ、テラエナジーさんの信頼している施工業者がやってくるので、その点は大丈夫だろうと見守りました」

また蓄電池に関しては、大きさが懸念点だったと話します。
「蓄電池は水に浸かるとダメになると聞いていました。この辺りは川が近く水害も起こりうるので、せっかく購入したのに大雨でダメになったということがないようにしたいと考えました。そこで渡り廊下の上に設置することにしたのですが、邪魔にならないかなと心配でしたね」
実際設置してみると、想像していた以上に薄く驚いたそう。
「今までとなんら変わることなく生活できているので、非常に助かっています。施工業者の方も、配電盤の位置や工事で穴を開ける必要がある箇所などを、事前に丁寧に説明した上で進めてくれました。不安な点を全部クリアして取り付けることができ、満足しています」

有事の際に地域の方の手助けになれば
電気代の節約はもちろんですが、設置には地域のためにお寺としてできることが増えるのではないかとの思いもあったと続けます。
「災害等が起こった際、行政によって避難所は開設されますが、なんらかの事情によって利用しづらい方や避難所まで足を運べない方の避難先の一つに、お寺がなれればと考えています。電気の供給がストップすることもあるでしょう。しかし、避難所やご自宅に必ず発電機があるわけではありません。電気は人間が生きていくためには必要不可欠なもの。太陽光パネルで電気を作って蓄電池に溜めておけば、天気にもよりますが電気の自給自足が可能です。いざという時、少しでも地域の方の手助けをできればいいですね」

晴れの日が楽しみに
設置が完了してから、阿満さんはスマートフォンに入れたアプリで、太陽光発電の状況や消費電力、蓄電池の残量など、システムの状況をこまめに確認するようになりました。
「エコキュートの炊き上げ時間を、電力が安くなる夜間の時間帯 (23時~翌朝7時) に設定し、日中は太陽光パネルで発電をして蓄電池に溜めて使っています。今日は晴れだから売電量が多いな、雨だから購入量が増えているなと、電気の使用量やお金を意識しながら生活しています。面白いですね」

2025年1月に工事し、同年2月から稼働。日照量の少ない冬季期間は電気代は数割減だったそうですが、4月には約5,000円になりました。2023年度の家計調査を見ると、家族5人の場合、電気代は月平均14,373円と出ているので、半分以下に抑えられていることがわかります。日照時間の長い夏季になれば、より電気代の削減が期待できます。
十分な手応えを感じていることから、阿満さんは「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」を追加で使用することも検討中なのだとか。
「京の景観ガイドラインを守らないといけないので、これ以上うちの寺に太陽光パネルをつけるのは難しい。でも、庫裡は建ててから14年が経過し、エアコンが古くなってきているので壊れる前に買い換えたいと考えています。補助対象期間は令和9年度までと聞いていますので、時期が来たら追加で検討したいです」
有事に備えてまずはお寺からエネルギーを見直していく。そうすることで、知らず知らずのうちに地域のため、ご門徒さんのためになっていくのだと、西養寺さんの活用の仕方から教えてもらいました。
うちのお寺でも地域のために何かできることはないかなとお考えの方、ぜひ脱炭素に向けた取り組みも検討しませんか。
対談記事「京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み」 https://tera-energy.com/otera-omoya-kyoto/#actionAtKyoto |
執筆:北川由依
撮影:天﨑仁紹