テラエナジーでは、太陽光パネルと蓄電池を寺社仏閣に設置することで、宗教者を通じて市民の脱炭素への関心を高めることや、自然災害などのまちの防災拠点として存在価値を高めることにもつながると考え、寺社仏閣に協力を呼びかけています。さらにLED照明と省エネエアコンへの切り替えを促進することで、エネルギー消費量を減らして脱炭素地域の実現に取り組んでいます。
今回は、テラエナジーの呼びかけで、LED照明と省エネエアコンへの切り替えを実施していただいた時宗 長楽寺の牧野純山 (じゅんざん) 住職にお話を伺いました。
長楽寺では、書院建て替えの際にLED照明を導入、省エネエアコンへの切り替えなどを実施していただきました。導入いただいた背景にあるのは、1200年以上続いてきたお寺の歴史を守り続けたいという思い。長楽寺の歴史を踏まえ、お寺を存続する苦労やそこにかける想いをお話いただきました。
1200年の物語を持つ長楽寺
円山公園を東へ進み、大谷祖廟の北側に細い小道があります。道沿いに歩いていくと高台に向かって伸びる階段があり、その階段を登り切ったところにあるお寺が長楽寺です。人が多く賑わう祇園から離れ、静かな時間が漂う場所。境内の春は桜、秋は紅葉と四季折々の美しい景色を楽しむことができます。
創建されたのは、西暦805年 (延暦24年) 。桓武天皇の勅命によって、天台宗を開いた最澄が比叡山の延暦寺の別院としてこの地に長楽寺を建てたと言われています。なんと1200年以上前からこの地に在り続けているのです。
「桓武天皇が794年に平安京をつくり、およそ10年後に長楽寺を建てられました。高台に建てたのは、ここから平安京を見守るためだと言われているんですよ」(牧野純山さん)
天台宗として創建されましたが、法然上人の弟子の隆寛律師 (りゅうかんりっし) によって浄土宗に改宗。室町時代には国阿上人 (こくあしょうにん) によって、時宗に改められました。
「国阿上人が長楽寺に来られた際に時の当主と問答となり、その教えに心を打たれて国阿上人にその座を譲ったと伝わっています。時の権力者であった足利氏が帰依したことで時宗が隆盛期を迎え、この辺りも多くの寺が時宗に改宗したそうです。他の宗派に改宗されたお寺もありますが、長楽寺はこのとき以来、時宗として残り今に至ります」
当時は、円山公園の大部分も長楽寺の敷地でしたが、明治時代に発令された「社寺領上地令」によって境内の大半が円山公園に編入されました。
歴史を守り続けるという使命
さまざまな変遷を経ながらも、1200年以上歴史が続いてきた長楽寺。祖先から祖父、父、そして牧野さんへと受け継がれ、代々長楽寺を守ってきました。時代と共にお寺の在り方が変わってきている今、歴史あるお寺を守り続けていかなくてはならないという責任は大きいと牧野さんは話します。
「本堂の修復や火事になった宝物館を立て直したり、父が大変な思いをしながら寺を再興してきた姿をそばで見てきました。本堂は京都市の指定文化財ですし、仏像などの重要文化財もあります。文化財を守り、後世に残していかなくてはなりませんが、修復、保管、管理するためには多くの費用がかかります。当寺は多くの檀家さんがいるわけではないので、どのようにして費用を確保してくのかは大きな課題なんです」
先代の時から懸念されていたのは、書院の老朽化。近年の豪雨や台風による影響で、まったなしの状況に。
「祖父の代に建てられたのですが、元からある建物と建て増しをした間の溝から雨が入って建物が維持できなくなってしまい、急に工事をすることになりました。山寺ということもあり、とい (樋) に落ち葉が溜まるなど、環境や気候によって老朽化が進みやすい。マメに手入れをしなければなりませんが、私一人で寺の管理をしているため、手が回らないところもあります」
念願だった書院を修復
書院の建て替えを行おうと考えていた矢先、以前から交流のあったテラエナジーの霍野 (つるの) から「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」のことを聞き、書院の設備に活用できることを知りました。
「霍野さんとは傾聴僧の会で知り合ってから長いお付き合いでしたが、昨年、たまたまお寺に来ていただいたときにこのお話を聞いたんです。経費削減につながるだけでなく、脱炭素につながる取り組みに率先して参加できるというのはお寺にとって意義のあることではないかと思い、お願いすることにしました」
今回、長楽寺では書院のLED照明と省エネエアコンへの切り替え、再生可能エネルギー100%プランへ電力契約の切り替えを行っていただきました。
「重要文化財など国や市に指定されているものは補助金が出るのですが、指定されていない部分は自費で賄うしかないと考えていたのでとても助かりました。申請に関するやりとりもテラエナジーや京都市さんがバックアップしてくれ、スムーズに行えてよかったです。実はこの辺りは京都市内であるにもかかわらず、インターネット環境がありません。今回のご縁ができたことでこうした寺の困り事を共有し、新しい対策方法ができるようになればという期待もあります」
2024年11月に書院の修復が完了。しばらく見ることが叶わなかった書院の庭園も、再び公開することができました。
「この庭は室町時代、将軍・足利義政に仕えた相阿弥 (そあみ) が手がけた作品で、実は長楽寺の庭で試しに作庭した後に、銀閣寺の庭園をつくったそうなんです。書院を建て替えた暁には、ゆっくりお庭を鑑賞できる場所にしたいという思いもありました。これを機に、より多くの方が足を運んで下さったら嬉しいですね」
補助対象となる設備について https://tera-energy.com/post/4610/ |
仏教体験と未来への展望
現在は、書院の前にある茶室の再建を目指し、クラウドファンディングを準備中とのこと。茶室も雨風によって老朽化が進み、当初は解体する予定だったそうです。
「もう残すのは無理かもしれないと諦めかけていたんですが、いろんな方から『価値のあるものだから、ぜひ茶室を残してほしい』という言葉をいただき、クラウドファンディングに挑戦することにしました。修復費用が集まることも大事ですが、クラウドファンディングをきっかけに長楽寺の存在を知ってもらえたり、行ってみようという方を増やしたいんです。何より、まずは挑戦するという姿勢が大事だと思っています」
この様に認知を広げる活動を行い、長楽寺の魅力を伝えていきたいと話す牧野さん。
「せっかくお越しいただくなら、仏教建築や景観を見て楽しむだけではなく、時宗という宗派の教義にも触れていただきたい。実は寺のほど近くには宿坊もあり、朝のお勤めや写経を体験していただくことができます。京都観光の際にはぜひ、宿坊に泊まって体験していただきたいですね」
宿坊の名前は「遊行庵 (ゆぎょうあん) 」といい、時宗の開祖である一遍上人 (いっぺんしょうにん) が諸国を歩いてまわり、修行を行った「遊行」に由来しています。
「今後は、境内の清掃体験をしてみたいというお声もあるので実施しようかと考えています。ただ拝観するだけでなく、お寺でしかできない体験を提供し、参拝料をいただく。それが寄付となって、皆さんにお寺を支えてもらっているという気持ちです。長楽寺という名のように、長く楽しく過ごせるお寺でありたいですから」
好きな気持ち、応援したい気持ちがお寺を支えていく。来る人もお寺もどちらにとっても良い関係をつくっていくことがこれからのお寺の在り方なのかもしれません。書院の修復から、さまざまなことが動き出している長楽寺。ぜひ足を運んでみてください。
対談記事「京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み」 https://tera-energy.com/otera-omoya-kyoto/#actionAtKyoto |
執筆:三上由香利
撮影:天﨑仁紹