臨済宗妙心寺派 長慶院

臨済宗妙心寺派 長慶院

導入内容
設置:太陽光パネル / 蓄電池 期間:2025年1月23日着工~2025年1月24日竣工
INTERVIEW
災害時に地域住民の居場所になるお寺を目指して 小坂興道 住職

テラエナジーでは、太陽光パネルと蓄電池を寺社仏閣に設置することで、宗教者を通じて市民の脱炭素への関心を高めることや、自然災害などのまちの防災拠点として存在価値を高めることにもつながると考え、寺社仏閣に協力を呼びかけています。さらにLED照明と省エネエアコンへの切り替えを促進することで、エネルギー消費量を減らして脱炭素地域の実現に取り組んでいます。

今回は、太陽光パネルと蓄電池を導入された長慶院の小坂興道住職にお伺いしました。導入いただいた背景にあるのは、災害などいざという時にお寺が地域のみなさんの役に立ちたいという想い。日頃から取り組まれている地域活動や、お寺の成り立ちなども合わせてご紹介します。

京都の暮らしが息づく歴史ある寺院

大本山妙心寺の塔頭 (たっちゅう) である長慶院。関ヶ原の戦いが起こった年と同じ、1600年に豊臣秀吉の妻北政所・ねねの姉に当たる杉原くまが開基となり、創建されました。妙心寺には46の塔頭寺院があり、長慶院は境内の最も北東に位置しています。

近隣には京都先端科学大学附属中学校・高等学校があり、チャイムの音や部活動に励む元気な声が聞こえてきます。

住職を務めるのは、17代目の小坂興道さんです。

お寺の存在意義を探して

長慶院は通常非公開寺院ですが、庭園にある藤の花の見頃に合わせて、3日ほど期間限定で公開されています。

藤と言えば藤棚に咲いているものが多いですが、こちらでは地面から生えた藤の木をそのまま見ることができます。樹齢約140年と伝わっており、客殿から鑑賞する白と紫の藤の花は圧巻。座敷の高さから見える珍しさも相まって、毎年多くのファンが訪れます。

地域活動にも積極的です。客殿はヨガ教室や映画鑑賞会などの地域イベントや会議スペースとしても使われる他、保護犬・猫譲渡会を主催する団体にも貸し出しをしています。

また、小坂住職はテラエナジーの竹本が理事として関わる、認定NPO法人京都自死・自殺相談センター Sottoの理事・相談員でもあることから、同法人が運営する「おでんの会」※ の会場にもなっています。

※ 死にまつわる悩みを抱える方が誰からもその気持ちを咎められたり蓋されたりすることなく自分の気持ちを話すことができ、また他人の話を聞くことができる、それぞれの気持ちが尊重される安心して居られる場

「お寺の間口を広げようと思い、様々な活動に使っていただいています」(小坂興道住職)

外出が制限されたコロナ禍には、地域の方の持ち込み企画として「at Temple」を開催。決められた時間は誰でもお寺で過ごすことができるように場を開いてきました。

「家に一人で居るのがしんどい人がここに来て、時間を潰していかれました。ただ開けてあるだけなのですが、家だと良くないことを考えてしまうので助かるとおっしゃっていました」

お寺を開くことや、地域活動への協力に積極的な長慶院。その背景には、小坂住職の想いが関係しています。

「お寺はね、もうちょっと今の世の中の役に立たないといけないなと思うんですよ。私たちのような伝統教団は衰退していっているからなんとかしないといけないと、昔から言われています。でも、その流れは今も変わっていない。風向きをね、少しでもうちが変えられたらいいなって」

東日本大震災から学んだ、備えの必要性

今回、長慶院は「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」を使って、太陽光パネルの設置と蓄電池を導入しました。導入を決めた理由は、お寺として地域貢献をしたいというブレがない想いです。

「うちの地域活動の原点は東日本大震災なんです。阪神・淡路大震災が起こった年、私は浪人中でお金も時間も情報もなくて何もできませんでした。2011年は30代。体力もあり、かつてできなかったことをやりたいという想いもあって、復興活動のために現地へ赴きました。今でも毎年3月には東北を訪れているのですが、そうした経験からいざという時のためにハード面を整えることの重要性を学びました」

10年ほど前、小坂さんはお寺の屋根の一角に、太陽光パネルを設置。全量売電 (太陽光発電で発電した電力をすべて電力会社に売却する仕組み) を選びました。

それから時間が経過し、テラエナジーから「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」の話を聞いたことをきっかけに、空いていた屋根に新たに太陽光パネルを置き、合わせて蓄電池も設置しました。

補助対象となる設備について

太陽光パネルの奥には、京都先端科学大学附属中学校・高等学校が見える

「10年前、蓄電池はまだ早いって言われたんですよ。少し待てばコンパクトになるし、低価格になりますよって言われてね……。太陽光パネルで発電したとしても、悪天候が続けば必要な時に十分な電気を確保できるとは限りませんよね。今回、蓄電池を設置したことで電気を貯めておくことができるようになり、災害時にもある程度電気を使えるようになりました」

掃除道具などと共にスッキリ収まった蓄電池

いざという時のライフラインを整備

災害などが発生した時に備えて、かまどや井戸も設置しました。薪も常備しており、いつ何が起こってもすぐにかまどを使ってお湯を沸かしたり調理をしたりすることが可能です。

「かまど開きイベントを開催した時は、釜でうどんを湯がいて、薪をくべるところでピザを焼きました。楽しいイベントを通じて、いざという時、長慶院を思い出してくれればいいなと考えています」

訪れたことのある場所、使ったことのある調理具があることは、災害時にとても心強いもの。長慶院ではこうしたイベントを不定期で実施しています。

「いざとなれば燃料も境内の木を切り倒したり、建具を外して燃やしたりすれば確保できます。境内に植えられている松の葉は着火剤として優れていますしね」

また、災害時の居場所としても活用したいと考えています。

「東日本大震災では、小学校や公民館などの避難所で女性や子どもが性被害にあった話も聞きました。じゃあ小さな避難所や在宅避難がいいかと言われると、支援物資が届きにくいという現実があります。地域のみなさんの分の食料や飲み水を長慶院に備蓄しておくことは難しいですが、近隣の避難所と連携して、就寝時やお風呂の時だけでも女性や子どもが安心して過ごせるような場所にしたいですね」

脱炭素社会の実現に向けて期待すること

地域社会に必要とされるお寺になるために、災害時にも使えるライフラインを整備し、開かれた場づくりにも積極的に取り組んできた長慶院。今後、「京都市脱炭素先行地域づくり事業補助金」に期待することとはどんなことでしょうか。

「補助金を利用することで、初期費用を抑えられて、金銭的リターンが見えやすいので安心して導入できました。一方で、京都市には『京の景観ガイドライン』があることから、太陽光パネルなどの設置は難しい場所が多いですよね。特に重要文化財に指定されていれば、導入は不可能です。でも、脱炭素社会への転換が期待され、環境に配慮した行動が求められています。そこは矛盾しているところがあるんじゃないかな…と思っていて。技術を進めるのがいいか、ルールを変えるのがいいのかは分かりませんが、脱炭素社会に向けて追随していきやすい仕組みによりなっていくといいと思います」

小坂さんとテラエナジー神島・道上

「誰しも、今の生活を急激に変えられるものではないと思うんです。この先も、化石燃料を使いすぎるかもしれませんし、発電所の事故が起きたりすることがあるかもしれません。でも、私はそれも定めなんだろうなと考えます。仏教用語で言うと、この世の移ろい、諸行無常って話かなって。その中で、私は自分が幸せと思える範囲でやれることをやりたいですし、自分が望む世界に近づいていけばいいと願っています。私は環境活動に特別熱心なわけではありませんが、脱炭素社会は望んでいる方向です。補助金にも賛同者が増えて、太陽光パネルや蓄電池の導入が増えていけば良いと思います」

自らの願う社会、望むお寺のあり方に向かって、一歩ずつ進む長慶院。今後も、様々な取り組みを通してお寺が地域社会に開かれた場になり、いざという時に頼られる存在になるよう活動を続けていくことでしょう。

対談記事「京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み」
https://tera-energy.com/otera-omoya-kyoto/#actionAtKyoto

執筆:北川由依
撮影:天﨑仁紹

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